2010-03-31

お詫び、そしてやり場のない怒りのはけ口

当ブログをご覧になられている方で、昨日(3月30日)にRadiantにご来店いただいたお客様にお伝えしたいことがあります…。

せっかくご来店していただいたにもかかわらず、店のバーテンダーが状態の悪いリアルエールをお出ししてしまったようで、大変申し訳ありませんでした!!BeestonのIPAはあんな、ふ抜けた味わいのエールではありません。遅くとも来週半ばには、ちゃんとした状態でお出しいたしますので、もしよろしければもう一度ご来店願えますでしょうか?私の指示が不徹底だったせいで、本当にご迷惑をおかけいたしました。

ことの顛末は以下の通りでございます…。

30日は遅くまで打ち合わせがあったので、私がRadiantにセラーリングをしに行ったのが夜10時をかなり回った頃でした。別のマイクロカスクの納品があったので、カスクをぶら下げてお店に入っていくと、バーテンダーさんから

「今日の6時頃、ブログを見て来店された方がおられました」

とのこと。ちょっと嬉しくなった私は、「どんな反応でしたか?」とわくわくしながら尋ねました。すると

「はい、IPAのほうもご希望だったので、出して差し上げました」と。

………。

「あのー、あのIPAはまだ出さないでってお伝えしたはずですが…?」
「あ、お出しする前に私もテイスティングしたんですが、問題なかったですよ◎お客様も『こっちの方が好みです』とおっしゃってましたし」

私はその時、彼をどつき回してしばき倒してやろうという怒りの衝動を抑えるのにものすごいエネルギーを必要としたと正直に告白します。何度も言いますが、何も誇張しているわけじゃなく、リアルエールは文字通り「生きている」んです!だから、扱いを間違えると死んでしまうんです!!!

ま、大人の対応にて、今後はこういうことがないようにとは強く念押ししましたが、バイクでの帰り途に徐々に怒りがこみあげてきてしかたなかったですよ。オレが今まで彼に話してきたことは一体なんだったんだろう。紙に書いた資料だって渡しているのに、読んでもらえてないんだろうか…。フルフェイスのメットの中で声にならない叫び声をあげたりするんで、隣のバイカーが驚いてこっちを振り返ったりしてましたよ。

CAMRAのセラーリングの本なんかを読んでも書いてありませんが、移動によって振動が加わると、味わいの要素がバラけてしまって、元に戻るのに最低でも1週間はかかるんですね。で、件のIPAのカスクがお店に到着したのは3日前なのです。そして、ヴェンティング(ガス抜き)は少なくとも提供開始の24時間前に一度行わないと、還元香が残ってしまいます。また、ガス圧が高いままで提供すると、CO2のマスキング効果によって味わいが弱く感じられてしまいます。それと清澄度の問題もあります。彼が勝手に提供直前にカスクを移動していたのですが、案の定、澱(酵母)が舞い上がっていました。さらに、最凶の禁止事項なのに、彼は提供後もヴェンティングバルブを開放したまま(ガス圧についての以前のエントリをお読みください)。しかもバルブの閉め忘れは今日が初めてじゃないわけで…怒

まあ、私がいかにもさらっとセラーリングをしていたので(早い日は10分くらいです)彼も誤解されたのだと思いますが、ダテに私もボーンマスのAward Winning Pubでセラーマン研修をしてきたわけじゃないし、英国滞在中は毎日10種類以上のフルパイントを、酵母のせいで下痢するまでテイスティングし続けたり、シチリアの超自然派ワイナリーでトップキュヴェを全量一人で仕込んだりしてきたりした訳じゃないのでね。
各カスクごとの個体差を考慮にいれて、どのカスクをどの順番で提供するのかとかはもちろん、これは結構社外秘なのであまり言いたくないのですが、酸化熟成によって味をどのように乗せていくかという上級テクニックなんかも用いています。当然カスクの移動にしても、私の場合は数日先の提供開始を予見して行っているのです。さらに、月の満ち欠けやその日の気圧なども考慮に入っていますし…。オカルティックだと思われるかもしれませんが、リアルエールはナチュラルな液体なので、そういった外部要因の影響を強く受けるのです。

つまり、私がセラーリングするときは、その行為の一つ一つに、深い意味があるということです。

その知識と技術を、パブやバーのスタッフが全員身につけて欲しいなどとは私はハナから思っておりません。私のセラーマンとしての職責は、エラーマージンを十分に取った上で、誰でも美味しいエールを提供できるように毎日のセッティングを完璧に行うことです。バーテンダーの彼は、リアルエールについては、私のセッティング通りにしていれば何の問題もないのです。そしてその気があれば、私の仕事の中身だって基本的なことは誰にでも体得できるレベルなのに、何も分からないうちにいきなり「破格」に走るんですから…。私の怒りの意味、お分かりいただけますよね?

そりゃビールとしてなら、カスクの中の液体は工場出荷時にすでに完成しています。でも、その未完成の液体の「近い将来のあるべき姿」を客観的に想定できて、様々なパラメータをコントロールしながら正しい状態に持っていける人間は、英国でもプロ中のプロの限られたセラーマンだけです。日本には、手前味噌ながら、(現在も鋭意勉強中の)私しかおりません。そして、正しい英国のリアルエールを完璧なコンディションで飲むという経験を能動的に追及し、それをデータにまとめている日本人は、知る限りでは私を含めて現在2名しかいません。

ま、このレベルの話になると、日々の鍛錬はもちろんですが、生来の才能という部分が大きいのかもしれませんが…。

かの著名なワインジャーナリストのマット・クレイマーが書いているように、プロとアマチュアを区別するものは何かと言えば、「上質なモノと好きなモノを区別できるか否か」なのです。自分の興味の対象を、客観的な視点(これも恣意的なものではありますが)で見つめることができるかどうか。
それは言いかえれば、普通の人が無意識のうちに秒速でスルーしてしまう部分を、どこまで分析できるかということです。リアルエールの世界で言えば、グラスに口を近づけた時のエールのアロマ、口に含んだ時のフレーバー、飲みこんだあとの余韻という「官能的無意識」の経験を、どこまでスローモーションにして、あるいはクローズアップにして、意識下に置くことができるのか。この問題意識を持てるのが、プロのセラーマンでありブルワーだと思うのです。日本の現状では、スタッフの側にも地ビールのメーカー側にも、リアルエールをそこまで理解できている層はもちろん、個人のレベルでも存在していません。これは断言できます。ましてや消費者をや。

(反論をお持ちの方はコメント欄からどうぞ◎)

私はそこまでのガッツとプライドを持って英国をフィールドワークしてきて、現在はリアルエールエージェント兼セラーマンという肩書を名乗っております。根拠もないのにそれを軽視する人間には黙っておりませんので…。私の背後には、真摯にリアルエールを仕込むマイクロブルワリーのスタッフ達が、私の考えに賛同してくれる現地パートナーたちが、そしてローカルネタを提供してくれる熱心なエールラヴァーたちが控えているのです。いい加減な仕事をしたら、彼らに合わせる顔がありません。みんな熱意でつながっている仲間なんですから。

仮にも日本で初めて、リアルエールを提供しているバーですよ?間違ったものを出せば、それがスタンダードになってしまうんです。そこはしっかりプライドを持ってやってくださいよ、ね、Sさん◎

あー、すっきりした(笑)ではおやすみなさい!

↓今日はこんな感じですかね?ちなみにダブルミーニングですので…笑




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LondonSakeBoy

お疲れ様です。

熱い!ブログ見ました。
熱くやってください、変わらず、これからも。

Re: LondonSakeBoy

励ましの言葉、ありがとうございます!笑
つい我慢できなくて、言いたいことエントリに書いちゃいました。
いいモノをちゃんと提供したいというシンプルなコトが、ここまで大変とは…。
ま、引くに引けないんで、このまま突っ切るしかないですね◎
早く帰国してくださいよ…なんて:D

> お疲れ様です。
>
> 熱い!ブログ見ました。
> 熱くやってください、変わらず、これからも。

今晩行ってみようと思います。
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olubayo

Author:olubayo
日本唯一の英国リアルエールエージェント兼セラーマン。大阪外国語大学卒業後、某大手新聞社を早期退職。翻訳をしながら某料理雑誌記者という二足のワラジ時代を経て、一念発起してシチリアの超自然派ワイナリーで修業。ワイナリー設立の資金集めのため、もう一つの偉大な醸造酒文化である英国の「カスクコンディションリアルエール」を日本に紹介する仕事に奮闘中~
お店でリアルエールを提供したい方、一度飲んでみたい方、業態開発をお考えの方、みなさん大歓迎です。どこへでも説明に伺いますよ!

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