2010-03-31

お詫び、そしてやり場のない怒りのはけ口

当ブログをご覧になられている方で、昨日(3月30日)にRadiantにご来店いただいたお客様にお伝えしたいことがあります…。

せっかくご来店していただいたにもかかわらず、店のバーテンダーが状態の悪いリアルエールをお出ししてしまったようで、大変申し訳ありませんでした!!BeestonのIPAはあんな、ふ抜けた味わいのエールではありません。遅くとも来週半ばには、ちゃんとした状態でお出しいたしますので、もしよろしければもう一度ご来店願えますでしょうか?私の指示が不徹底だったせいで、本当にご迷惑をおかけいたしました。

ことの顛末は以下の通りでございます…。

30日は遅くまで打ち合わせがあったので、私がRadiantにセラーリングをしに行ったのが夜10時をかなり回った頃でした。別のマイクロカスクの納品があったので、カスクをぶら下げてお店に入っていくと、バーテンダーさんから

「今日の6時頃、ブログを見て来店された方がおられました」

とのこと。ちょっと嬉しくなった私は、「どんな反応でしたか?」とわくわくしながら尋ねました。すると

「はい、IPAのほうもご希望だったので、出して差し上げました」と。

………。

「あのー、あのIPAはまだ出さないでってお伝えしたはずですが…?」
「あ、お出しする前に私もテイスティングしたんですが、問題なかったですよ◎お客様も『こっちの方が好みです』とおっしゃってましたし」

私はその時、彼をどつき回してしばき倒してやろうという怒りの衝動を抑えるのにものすごいエネルギーを必要としたと正直に告白します。何度も言いますが、何も誇張しているわけじゃなく、リアルエールは文字通り「生きている」んです!だから、扱いを間違えると死んでしまうんです!!!

ま、大人の対応にて、今後はこういうことがないようにとは強く念押ししましたが、バイクでの帰り途に徐々に怒りがこみあげてきてしかたなかったですよ。オレが今まで彼に話してきたことは一体なんだったんだろう。紙に書いた資料だって渡しているのに、読んでもらえてないんだろうか…。フルフェイスのメットの中で声にならない叫び声をあげたりするんで、隣のバイカーが驚いてこっちを振り返ったりしてましたよ。

CAMRAのセラーリングの本なんかを読んでも書いてありませんが、移動によって振動が加わると、味わいの要素がバラけてしまって、元に戻るのに最低でも1週間はかかるんですね。で、件のIPAのカスクがお店に到着したのは3日前なのです。そして、ヴェンティング(ガス抜き)は少なくとも提供開始の24時間前に一度行わないと、還元香が残ってしまいます。また、ガス圧が高いままで提供すると、CO2のマスキング効果によって味わいが弱く感じられてしまいます。それと清澄度の問題もあります。彼が勝手に提供直前にカスクを移動していたのですが、案の定、澱(酵母)が舞い上がっていました。さらに、最凶の禁止事項なのに、彼は提供後もヴェンティングバルブを開放したまま(ガス圧についての以前のエントリをお読みください)。しかもバルブの閉め忘れは今日が初めてじゃないわけで…怒

まあ、私がいかにもさらっとセラーリングをしていたので(早い日は10分くらいです)彼も誤解されたのだと思いますが、ダテに私もボーンマスのAward Winning Pubでセラーマン研修をしてきたわけじゃないし、英国滞在中は毎日10種類以上のフルパイントを、酵母のせいで下痢するまでテイスティングし続けたり、シチリアの超自然派ワイナリーでトップキュヴェを全量一人で仕込んだりしてきたりした訳じゃないのでね。
各カスクごとの個体差を考慮にいれて、どのカスクをどの順番で提供するのかとかはもちろん、これは結構社外秘なのであまり言いたくないのですが、酸化熟成によって味をどのように乗せていくかという上級テクニックなんかも用いています。当然カスクの移動にしても、私の場合は数日先の提供開始を予見して行っているのです。さらに、月の満ち欠けやその日の気圧なども考慮に入っていますし…。オカルティックだと思われるかもしれませんが、リアルエールはナチュラルな液体なので、そういった外部要因の影響を強く受けるのです。

つまり、私がセラーリングするときは、その行為の一つ一つに、深い意味があるということです。

その知識と技術を、パブやバーのスタッフが全員身につけて欲しいなどとは私はハナから思っておりません。私のセラーマンとしての職責は、エラーマージンを十分に取った上で、誰でも美味しいエールを提供できるように毎日のセッティングを完璧に行うことです。バーテンダーの彼は、リアルエールについては、私のセッティング通りにしていれば何の問題もないのです。そしてその気があれば、私の仕事の中身だって基本的なことは誰にでも体得できるレベルなのに、何も分からないうちにいきなり「破格」に走るんですから…。私の怒りの意味、お分かりいただけますよね?

そりゃビールとしてなら、カスクの中の液体は工場出荷時にすでに完成しています。でも、その未完成の液体の「近い将来のあるべき姿」を客観的に想定できて、様々なパラメータをコントロールしながら正しい状態に持っていける人間は、英国でもプロ中のプロの限られたセラーマンだけです。日本には、手前味噌ながら、(現在も鋭意勉強中の)私しかおりません。そして、正しい英国のリアルエールを完璧なコンディションで飲むという経験を能動的に追及し、それをデータにまとめている日本人は、知る限りでは私を含めて現在2名しかいません。

ま、このレベルの話になると、日々の鍛錬はもちろんですが、生来の才能という部分が大きいのかもしれませんが…。

かの著名なワインジャーナリストのマット・クレイマーが書いているように、プロとアマチュアを区別するものは何かと言えば、「上質なモノと好きなモノを区別できるか否か」なのです。自分の興味の対象を、客観的な視点(これも恣意的なものではありますが)で見つめることができるかどうか。
それは言いかえれば、普通の人が無意識のうちに秒速でスルーしてしまう部分を、どこまで分析できるかということです。リアルエールの世界で言えば、グラスに口を近づけた時のエールのアロマ、口に含んだ時のフレーバー、飲みこんだあとの余韻という「官能的無意識」の経験を、どこまでスローモーションにして、あるいはクローズアップにして、意識下に置くことができるのか。この問題意識を持てるのが、プロのセラーマンでありブルワーだと思うのです。日本の現状では、スタッフの側にも地ビールのメーカー側にも、リアルエールをそこまで理解できている層はもちろん、個人のレベルでも存在していません。これは断言できます。ましてや消費者をや。

(反論をお持ちの方はコメント欄からどうぞ◎)

私はそこまでのガッツとプライドを持って英国をフィールドワークしてきて、現在はリアルエールエージェント兼セラーマンという肩書を名乗っております。根拠もないのにそれを軽視する人間には黙っておりませんので…。私の背後には、真摯にリアルエールを仕込むマイクロブルワリーのスタッフ達が、私の考えに賛同してくれる現地パートナーたちが、そしてローカルネタを提供してくれる熱心なエールラヴァーたちが控えているのです。いい加減な仕事をしたら、彼らに合わせる顔がありません。みんな熱意でつながっている仲間なんですから。

仮にも日本で初めて、リアルエールを提供しているバーですよ?間違ったものを出せば、それがスタンダードになってしまうんです。そこはしっかりプライドを持ってやってくださいよ、ね、Sさん◎

あー、すっきりした(笑)ではおやすみなさい!

↓今日はこんな感じですかね?ちなみにダブルミーニングですので…笑




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2010-01-26

エールの泡について

さてさて、ご無沙汰しておりました。
ご無沙汰してたってことは、現実世界が忙しかったということです…。
ていうことは…近々リアルエールラヴァーのみなさんに、嬉しいお知らせができるかも!?

ま、期待せんと待っといてくださいね。

今回のエントリは、前回の二酸化炭素ネタに引き続いて、エールの泡についてお話します。
ビールの泡(英語では「ヘッド」と言います)というものは、とかく好事家のネタになりやすいものでして、やれグラスにおける液体との比率だの、泡の細かさだの、エンジェルリングだの何だの…。それはかの国のエールラヴァーたちも一緒です。パブのカウンターで、口角泡を飛ばして(エールの泡じゃないですよ)議論するわけです。ときには感情的になることも。ま、そんなときは、以下に書くように、あなたがテクニカルに話せば済む話。何パイントも飲んだ後に、頭がうまく働くは保証しませんが…。

そもそも、何があの泡を作るのでしょう?まずは試しに水をグラスに勢いよく注いでみてください。泡は出ませんよね。つまり、水が持っている特性ではありません。じゃあ今度は、炭酸の入った清涼飲料水を注いでみてください。おお、勢いよくヘッドが形成されます。でも、ビールのヘッドのように持続力を持っているわけではありません。ということは、炭酸ガスが持っている特徴でもないようです。
実はあの持続的な泡を生みだす原因物質は、ビールの中に存在する微量成分、具体的に言うと、ある特定のタンパク質なのです。一杯のビールの中には、おびただしい量の有機化合物が含まれているのですが、その中に「糖タンパク質」と呼ばれる一群があり、それがビールの泡を作りだしているのです。
糖タンパク質というのはけっこう大きな分子でして、便宜的な言い方ではありますが、「頭」と「尻尾」があります。この両端は正反対の特性を持っておりまして、頭は疎水性(水をはじく)、長い尻尾は親水性(水となじむ)なのです。ビールの泡が形成されると、この糖タンパク質が泡の表面に上ってきます。疎水性の頭部が泡の表面上に顔を出そうとする一方(疎水性ですから)、尻尾は泡の中にとどまろうとします。結果、泡の表面には一種の膜のようなものが形成され、泡の粘性が増加し、泡の構造が維持されるのです。

とはいえ、糖タンパク質だけでビールの泡について語れるのかと言えば、そんな簡単な話でもないわけで。むしろこれから書く内容の方が、世のビール飲みたちが日夜繰り広げている熱烈な議論において、あなたを色々な意味で優位な立場に立たせてくれるでしょう(笑)。リアルエールのヘッドはどのようにして形成されるのか、そしてヘッドの中にどのようなガスが入っているのか、そしてヘッドの見た目、そしてヘッドはどのようにビールの味わいに影響を与えるのか???結構調べたので、このブログの読者の方々だけに、こそっとお話ししますね。

エールをグラスに注ぐ方法はいくつかあるわけですが、グラビティシステムや短い注ぎ口がついたハンドポンプなどの場合、提供時にグラス内に生じる対流によって泡が生成されます。この場合、泡のサイズはバラバラで、ゆるいヘッドを形成します。これはイギリス南部で良く見られるヘッドのタイプで、大きくて不均一な泡の中には、相当量の空気が含まれています。このようなタイプの泡は、ビールの味わいに大きな影響を与えることはありません。
これとは別に、ハンドポンプの注ぎ口にスパークラーが取り付けられている場合もあります。エールはスパークラーに開けられたたくさんの小さな穴を通ってグラスに注がれますが、その際に2つの変化が生じます。一つは穴を通過するときの刺激で二酸化炭素が液体から遊離し(缶入りの炭酸飲料を振ってから開けた時と一緒です)、もう一つには小さな水流によって泡に抱きこまれる空気の泡サイズがより細かく、均一になります。このようにして形成された固めのヘッドは、通称「ヨークシャー・ヘッド」と呼ばれ、北部に行くほど一般的に見られるようになります。こちらのヘッドは味わいにも影響を与えます。二酸化炭素が液体から遊離する際には、ホップオイルも同時に空気中に放出されます。結果として、グラビティで注いだ場合よりもホップの苦みが和らぎ、炭酸ガスの濃度も少しだけですが低下します。愛好家たちは、これを「スムーズなエール」と呼んでいます(が、いわゆるケグエールの「スムーズ」とはゆめゆめ混同なさらぬよう)。

ところで最近は、「第三の道」が登場しました。もうあちこちで見られるようになって、急速に普及した感もあります。名前を「スワンネック」と言います。文字通り、白鳥の首のような長い注ぎ口がついたハンドポンプのことです。パブスタッフがスワンネックでエールを注ぐ動作を見ていると、注ぎ口をグラスの底にほとんどくっつかんばかりにしてエールを注いでいます。エールが、グラスの底からズーっとせりあがってくる感じです。「あれ、空気抱き込んでへんやんけ。これじゃヘッドできひんやん」て思ってみていると、なんと細かくてきれいなヘッドが形成されているじゃないですか!?
このスワンネック、簡単な物理学の定理を応用したものなんですね。高校の授業でその定理の名前を聞いたことがある方もおられるでしょう。「ベルヌーイの定理」てやつです。実際はややこしい計算式が出てきて軽い頭痛を起こすので、文字でもって簡単に説明します。

「流体の流速が上がると、圧力が下がる」


ということです。「そう言われても直感的には分からんわ」という方々のために、ハンドポンプを通って提供されるエールの状態で、具体的なイメージをつかんでみましょう。
以前説明したように、ハンドポンプは井戸の原理でエールを樽から吸い上げます。チューブラインを通ってポンプアップされたエールは、チューブの内径よりも細いスワンネックを通過します。ここで、チューブ5cm分のエールの量を想像してください。このエールがスワンネックを通る際には、当然見た目の長さは5cmより長くなります(便宜的に6cmと仮定しましょう)。でも、あとからあとから吸い出されてくるエールの流速は変わりません。つまり、スワンネックを通るときには長い距離を同じ時間で通過しなければならない訳です。つまりエールの流速が上がるのです。ということは、スワンネックの中を通るエールは、一時的に低圧状態に置かれるわけです。

はい、圧力が下がった分だけ二酸化炭素が液体から放出されますね。放出された二酸化炭素は液体の中を通り、その間にホップオイルを始めとしたアロマ成分を遊離させながら、グラスの上部にあがってきます。その結果、固くてタイトなヘッドを形成するのです。それと同時に、液体中の二酸化炭素濃度が下がるので、飲み心地もスムーズになります。また、香り成分も感知しやすくなります。

ここまで説明すると、必ず「じゃあ、絶対オレはスワンネックだな」と一人合点する方がおられます。でもちょっと待ってください。コトはそうそう簡単なものではありませぬ。いみじくもジョージ・オーウェルが言ったように(彼は別にエールについて言ったわけではありませんが)、ゆるいヘッドも、固いヘッドも、スパークラーもスワンネックも、すべては嗜好の問題なわけです。嗜好とは後天的なものですから、自分の育った環境に多く依存するわけで、南部で育った人なら、ゆるいヘッドを好む人が多いでしょうし、北部ならヨークシャーヘッドでしょう。ちなみに私は最初にエールを飲み倒したのがボーンマスなので、当然ゆるいヘッドを好みます。最初は硬い印象のエールが、グラスの中で徐々に開いていくのを楽しめるというのもありますし。
加えて醸造担当者が、どのように提供されるかを企図してそのエールを造ったのかということも考慮する必要があります。そういった造り手の意図や地域性といったものを無視して、例えばすべてのエールをスワンネックで提供しているようなパブがあれば、それは単にマネジメントの欠陥と見るべきでしょう。さらに、ある客がスパークラーを用いて注いで欲しいと言っているところを、「いいえ、ウチはやりませんので」と拒否するようなパブも一緒です。そんなパブのたわごとに付き合わされそうになった時には、みなさんは勇気を持ってそのパブから出ていき、毅然と拒否の意思表示をしてください(その地域にパブが一軒しかないときは悲劇ですけどね)。

では今日はここまで。次回のネタは…。考えときます。

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2010-01-14

気が抜けているわけではありませんよっ!リアルエールの炭酸ガスについて

いやー、寒い一日でしたね。部屋で暖房全開にしても、靴下2枚履き、ズボン2枚履き、上着4枚(笑)。手袋までしてキーボードたたいてましたよ。一人身になった今では部屋が不必要に広いので、寒いのでした(=_=)

さて、気を取り直してと。

エールを「気が抜けたビール」(怒)などと言う方がおられるように、エールの炭酸ガスについてはかなり誤解が多いです。なので、今回はリアルエールの二酸化炭素についてお話しますね。私はリアルエールのエージェントであると共にセラーマンなわけですが、そのセラーマンという職業の、一番重要な部分がこの二酸化炭素(以下CO2)のコントロールなのです。それでは、具体的に見ていきましょう。

ご存じのように、CO2というのは無味無臭のガスでして、発酵の過程において、アルコールの次に多く生成される物質であります。自然界の中では、大気中にごく少量(0.037%)含まれていますね。その大気中の他の気体(酸素と窒素)と比べたCO2の大きな特徴は、水に溶け込みやすいということです。つまり、もしこの特徴がなかったら、大気中のCO2の割合は今よりずっと大きくて(海中にある分が空気中に放出されるわけで)、われわれ生物は地上で生きていけなかった。ま、とにかく、その特徴があるからこそ、私たちは美味しいビールが飲めるってわけです。なので、先に申しあげたように、エールのCO2濃度(これを「コンディション」と呼びます)を最適化することが、エールセラーリングの最重要課題なのです。ちなみに、定温(13℃)のセラー内では、1パイントのエールの中には、平均して1パイント強(常圧での容積換算)のCO2が含まれています。

ビールの中に含まれるCO2量を決める要素は3つありまして、一つ目は「液体の温度」、二つ目は「ビールの液面にかかるCO2の圧力」、そして最後に挙げられるのが「最初の2つの要素が、直近の数時間でどのように変化したかという経過」です。もし温度とCO2圧力が一定であれば、カスク内のビールにおける溶存ガス量は、どんなに時間が経っても増減することはありません。この事実が実は結構理解されていなくて、カスク内にビールが入っている時間が長いほど、溶存ガス量が増加すると考える人が結構多いのです。

一つ目の、温度がガス圧にもたらす影響というのは、みなさんも経験からおわかりかと思います(冷えたラガーはおいしいでしょ?)。つまり、液体の温度が冷たいほど、溶存CO2量が増えるのです。このことはつまり、セラーの温度が数℃上下しただけで、オーバーコンディションと呼ばれる状態になったり、あるいは反対にアンダーコンディション(いわゆる気が抜けた状態)となることを示唆しております。じゃあどちらがより致命的なのかといいますと、やはり後者でしょう。この場合、提供時にどんな冷却器を使っても修正できません(ガス添加はダメですよ。リアルエールなんだから)。

二つ目のCO2の圧力ですが、これはちょっと難しいです。なのでスムーズに理解するために、物理学の話を少々させてください。この場合、考える必要があるのはCO2の絶対圧力です。他の気体、たとえば酸素や窒素は無関係です。空気のような混合ガスにおいては、各気体の圧力(=分圧)がそれぞれ独立して作用し、ビールの液面における全ガス圧となります。「混合気体の全圧は、各気体の分圧の計に等しい」という、ドルトンの法則ってヤツですね。つまり大気中(1バール=1000ミリバールの場合)の分圧は、約200ミリバールの酸素、800ミリバールの窒素、そして計測不能なくらいにごく少量のCO2ということになります。だからフタをしないでビールを放置しておくと、炭酸ガスが抜けてしまうのです。
ちなみに、半日以上静置したカスクコンディションエールをセラー内でヴェンティングすると、13℃の場合はだいたい1.1v/v(液体中のCO2濃度を表わす単位というのはいくつかあるのですが、リアルエールの世界では「volumes/volume」略してv/vという単位を用います)の溶存CO2量に自動的に落ち着きます。炭酸ガスは味覚に対して最も大きなマスキング効果を持つので、これが数℃下がるとエールの味わいが弱くなります。反対に数℃上がると、気が抜けた味わいになってしまいます。

今さらっと書きましたが、このことは重要です。つまり、
リアルエールにおいては、弾ける炭酸ガスの冷たいのど越しではなく、ホップと麦芽が生みだす複雑な味わいに力点がおかれているのです。より深い味わいのために、あの炭酸ガス濃度にする必要があるのです。

さて、セラーにカスクが到着し、ラックに乗せられた時点(つまりヴェンティング前)では、カスク内に存在するガスというのはCO2だけですが、カスクに詰められてからずっと進行中の2次発酵工程によってCO2のガス圧は高まっており、一部は液体中に溶存し、一部は気体となっています。これはこれでバランスが取れているのですが、この状態でカスクをヴェンティングすると一気に余分なガスが放出され、空いた空間に、過飽和だった液体中のCO2が気化していきます。この一連の作業の中で液体温度が適温のまま変化しなかった場合、このまま数時間経過すると新しいガス圧のバランスが完成し、コンディショニングはこれで完了します。この時点では、カスク内の二酸化炭素の圧力が、大気圧と等しくなっています。

このカスク内の環境は、エールが消費されていくに従って変化していきます。これは私が今回輸入計画を立てているポリピンではなく、通常のアルミカスクからハンドポンプで提供する場合でお話しますね。アルミカスクは硬いので、ハンドポンプによってエールが吸い出されると、内圧が下がってある時点からはエールを吸い上げることができなくなります。そのため、ヴェンティング後のカスクには「ソフトスパイル」という、空気を通す素材(主に木材)でできた栓が刺さっています。これを通して、カスク内の空隙には空気が入ってきます。つまり、エールが消費されていくにつれて酸素や窒素の分圧がかかってきて、CO2の圧力が下がっていくわけです。気が抜けていくわけです。

まさにこの部分、カスクが空になるまでにどのくらいのCO2を液体内にとどめておけるかがセラーマンの腕の見せ所です。

口切りからカスクが空になるまでの時間が短ければ短いほど、セラーマンの仕事は楽になります。しかし状況によってその時間の長さは千差万別。数時間で空になることもあれば、数日かかることもあります。予想できない出来事に対処するために、なるべく多くのCO2をカスク内に残しておくことは重要です。そのため非提供時には、先ほどのソフトスパイルではなく、ハードスパイル(気体を通さないタイプ)を使うのが必須です。
まあ、ポリピンの場合は内圧が下がると同時に容器自体が縮んでいくので、CO2が抜けるという恐れはありません。そういった意味でも、ポリピンは扱いやすいのです。ただ、私が輸入用に用いるポリピンは厚みがあるので、ある時点からは縮みません。空気を入れて、内圧を調整する必要があるのです。そうなったときに、どうやって溶存CO2をコントロールするのか?

それが私のノウハウでございます(笑)。知りたい方は、直接私まで。

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2010-01-11

マイルドエールって、何が「マイルド」なの?

少し更新の間隔が開いてしまいました。ちょっとプライベートで色々あったもんで…。
さてさて、今日は前回のエントリの続きといっちゃなんですが、「マイルド」というエールのスタイルについて書いていきます。

世界最初の産業革命が起きる以前、つまり18~19世紀より前、すべてのビールは濃い茶色でした。その理由は、麦芽が薪火の窯で焙煎されていたからです。その時代のビールはすべて、スモーキーなアロマとフレーバーを持ち、また木製樽での長期熟成により乳酸が生成されるため、多少の酸味を伴っていました。今でもベルギーではこのスタイルのビールが残っている地方がありますし、イギリスでも、Greene KingのStrong Suffolk Aleを筆頭に、いくつか残っています。こういった産業革命以前の茶色いビールのうち、ほとんど樽熟成を行わないものを、本来はマイルドと呼んでいたわけです。つまり、酸味が「マイルド」なんですね。ちなみに当時、こういう若いブラウンエールは、ペールエールやオールドエールと混ぜ合わせ、ポーターやスタウトを造るのにも使われました。

18世紀の後半にもなると産業革命が進み、機織り機や溶鉱炉、坑道などで働く労働者たちが、長時間労働の後のリフレッシュ飲料として、ポーターより甘みのあるエールを要望するようになります。偶然にもその時期、醸造所側では、長期間の樽熟成にかかるコストを削減したいという希望がありました。両者の思惑が一致して、深煎りのモルトを使用し、熟成による酸味のない「マイルド」というエールが完成したのです。ただこのスタイルも、薪窯に替わりコークス窯が発明され、ペールモルト(淡色モルト)が広く作られるようになるにつれて変化していきます。ペールモルトは、クリスタルモルト、ブラックモルト、チョコレートモルト(いずれも深煎りモルト)とブレンドされ、さらに糖分やカラメルを添加することにより、より甘みの強いマイルドへと進化していったのです。ちなみに最近のマイルドエールは、さらに高品質の深煎りモルトを使うことで、以前とは比べ物にならないくらいの味わいの深みを表現できるようになっています。また、明確に甘いマイルドはあまり見かけませんね。

英国全土のビールの売り上げのうち、マイルドはわずか1パーセントを占めるにすぎないという現状からは想像できませんが、19世紀から20世紀にかけては、マイルドは英国で最も人気のあるビールでした。そうですよね。当時は肉体労働者が最も多かったわけですから。それを証明するようにマイルドは、英国の産業構造が変わった1950年頃にはほぼ絶滅してしまいます。
まあ、これは産業構造だけが理由ではなく、「マイルド」という名前が持つ残念な宿命のためでもあります。その名称ゆえに、マイルドは「ビター」より弱い、具体的にはビターより甘くて、ホップが少ないエールだと思われてしまうことが多いのです。もっとも、そのイメージは正しくありません。1871年に発行された「Arts of Brewing」によれば、一般的なマイルドは7%のアルコール度数を持つとされていますし、20世紀前半におけるマイルドの平均アルコール度数は5.5%でした。この時代のマイルドは、今もマイクロブルワリーによって造られています。代表的な銘柄としては、Sara HughesのDark Ruby Mild(6%)あたりですかね。

「労働者の飲み物」ということで売れなくなったマイルドに対して、醸造所側はアルコール度数を下げたり、名前から「マイルド」をはずすなどの消極的(笑)な措置で対抗します。BanksのMildがOriginalと改名したのがいい例ですし、McmullenのAKはビターとして販売されました(実際は非常に珍しい、ライトマイルドの逸品ですが)。

でも最近、やっぱりちょっとマイルド復活の兆しがあるみたいですね。現在マーストン傘下でリリースされているBanksのOriginalは、マーストンのウォルバーハンプトン工場の稼ぎ頭ですし、2000年にMoorhouseのBlack Cat MildがChampion Beer of Britainを受賞してからは、多くのマイクロブルワリーがマイルドを製造しています。さらに2007年はHobsonsのMildが、2009年はRudgateのRuby MildがSupreme ChampionのGoldを受賞しています。そのムーブメントは、米国にも飛び火しました。少なくない数のブルワリーが、「ブラウンビール」を造っています。あんまり米国のビール知らないんで、ぱっとはBrooklynのBrown Aleくらいしか思い浮かばないですが…すみません。やはり、特に米国のホッピーなビールに慣れた消費者に配慮して、「マイルド」の名称はここでも使われていないんですね。

ちなみに、昨年は私もだいぶマイルドをフォローしました。以下にテイスティングノートを少々。

Derby Pale Mild Moment 3.6% Derby, England
Dearby Pale Mild Moment
ゴールデンマイルド。青すぎるホップフレーバーが強烈。コーンみたいなアフター。うん、マズい。笑

Holdens Black Country Mild 3.7% Dudley, England
テイスティングのみ。コンディションが悪かった。軽薄な印象しかない。残念。

Hobsons Mild 3.2% Cleobury Mortimer, England
モルト麦茶。いい香りで期待度がUPする。ビタリングホップが結構効いている。少し火打石的なSO4フレーバーあるも許容範囲(コンディショニングの問題?)。アルコールを上回る充実した味わい。きちんと甘く、アフターやや長め。本当によくできたマイルド。

Goachers Real Mild 3.4% Maidstone, England
コーヒー、カカオ、納豆系イーストアロマ。多少コンディショニングしすぎだったんだと思う。だからこれといった特徴はないものの、とりあえずどんぴしゃにピントが合っているのがスゴイ。さっぱり系。とてもdrinkable。名前の通りのリアルマイルド。

Pilgrim Moild 3.8% Reigate, England
ブドウ系のフルーティーアロマ。追ってローストタンニンのあるモルトフレーバー。バブルガム系エステルが効いててユニーク。好みじゃないけど旨い。

White Dark Mild 4.0% Bexhill, England
テイスティングのみ。集中力ない感じでかなりwatery。酸味強すぎ。マズー。おそらく劣化してたと思われる。本来こんな造り手じゃないはず。

Moorhouse Black Cat 3.4% Burnley, England
Moorhouse Black Cat Mild
醤油→ダークチョコレート→黒い果実→ホップレジンという重厚なフレーバー構成。ローストフレーバーが全体に。チョコレートモルト使用。ピントが硬い感じで好感。輸入に堪えるかも?

Cains Dark Mild 3.2% Liverpool, England
Cains Dark Mild
リバプールのリージョナル。向こうが見えないくらい真っ黒なマイルド。少しピーティでヨード香がある。コーヒー的なアロマ。醤油→チョコレート→酸味。追ってローストタンニン。かなり締まった印象。おそらく口切りだと思われる。空気に触れることにより、グレープフルーツ系のアロマが立ち上がる。カスクにドライホッピングしてるせいかな?控えめな甘みもあり、バランスよし。

Elgood's
Black Dog Mild 3.6% Wisbech, England
Elgood's Black Dog Mild
スモーキーなモルトの甘みが全開なマイルド。もう少し酸味が欲しいかも。タンニンの収斂性はやや控えめ。特に魅力はないと思う。

Beckstones Black Gun Dog Freddy Mild 3.9% Millom, England
Beckstones Black Gun Dog Freddy Mild
モルティ。麦茶系の濃ゆいアロマ。強めのエステル。それ以外はやや単調かな。余韻もかなり短い。

Dark Star Old Chestnut 4% Haywards Heath, England
Dark Star Old Chestnut
昔は「Old Ale」と呼ばれていた。モルティ。カラメル混じりのフルフレーバー。醤油、次いでゴールディングスホップアロマ。ナッティなフレーバーが残りながらドライに切れていく。だいぶ濃い目、なのにキレるマイルド。あまり見ないスタイルではある。

Otley Dark-O 4.1% Pontypridd, Glamorgan, England
Dark Star Dark-O Mild
現代風に翻訳したマイルド。非常にはっきりした、深みのある麦茶アロマ。スモークアロマも強め。で、キレる。タンニンとか甘みとかに頼らず、アロマとフレーバーだけでモルトを表現して、それでいて味わいをおろそかにしない。ファグルズホップが効いてる。新しいスタイルだと思う。でも、今はブルワリーが「スタウト」扱いしているらしい。今すぐ飲めるスタウトね。

St. Peters Mild 3.7% Bungay, England
チョコレートモルトを使ったマイルド。アロマがエステルというか、トロピカルフルーツっぽい。ボディがあんまりないよね。うーん…。

Bateman’s Dark Mild 3.0% Skegness, England
これは旨いマイルドだと思う。北の赤いフルーツアロマ感じる。モルト甘く、酸味といいバランスを保っている。ホップはやや強めだが好ましい。アルコール低いのに、複雑。でチャーミング。こんなマイルドもあるんだね。

Rudgate Ruby Mild 4.4% York, England
Rudgate Ruby Mild
ルビーというほど赤みがかっているわけではない。あくまでダークルビー。強いチョコレート~コーヒーのアロマ。少しナッティアロマあり。非常にオーソドックスな構成。赤いフルーツ少々。ビタリングホップがちょっと強め。モルトの甘みもある。少しアルコール高めなので、飲みごたえのあるマイルドになっている。CO2が非常に細かいのも特徴。

まあ、いずれにせよ、マイルドは個人的に大好きなスタイルです◎特にランチタイムにパニーニ(イタリアかよ)と食べるのがお気に入りです。

次回は、どうしましょうかね?リアルエールにおける炭酸ガスのお話でもしますか。

では!Keep on binge drinking!:D

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2010-01-06

リアルエールは不変じゃない~ゴールデンエールに見る栄枯盛衰物語~

数年来、英国のリアルエールシーンを追っている私ですが、現地フィールドワーク(という名のはしご酒)の際には、必ずデジカメとメモを用意して臨みます。すべてはテイスティングノートのためです。

  1. ハーフパイントを注文

  2. 飲む前にその銘柄のポンプクリップがついたハンドポンプの前でパチリ

  3. 色を確認して、メモをとる

  4. 香りを聞き、メモをとる

  5. 軽く口に含み、空気を取り込むようにして味わいを見、メモをとる。吐きださず、舌の後ろからのどにかけての味わいも忘れずに確認

  6. あとは普通にグビグビと◎


というのが、現地のパブにおける、私の儀式です。

Milk Street Brewery Beer! with pump clip
画像はドーセット州ローカルのMilk Street Breweryの限定品、「Beer!」。とてもユニークで、パンドカンパーニュのようなイースト香があり、飲み口はキレまくります。そして複雑なモルトフレーバー。

上記の儀式を毎日、最低10種類(フェスティバルの時なんかは30種類を超えます)のエールについて行います。この行為、ローカルのエールラヴァー達にはアピール度十分でありまして(笑)、大体3杯目くらいに、誰かしらに声をかけられます◎みんなおじいちゃんばっかで、若い女の子じゃないというのが、いささか物悲しいところではあります。

それはおいといて。

今回のお話は、それら一連の行為のうちの3番目、「エールの色」についてです。

エールの色は、一般的にはそのエールの味わいを示すものとされていまして、お客が「今日は○○色のエールをくれ」と言うのはパブでよく見る光景です。また店側でも、ハンドポンプの脇にその銘柄のエールが入ったショットグラスを置き、どんな色のエールなのかを見せているところもあります。
しかし特に去年、一昨年あたりはノートを取る時に悩みました。どのエールを見ても、まあ金色ばっかりなこと。「カッパー」だの「アンバー」だの「ハニー」だのと枕詞をつけてみても、ベースは金色。ビターは9割がた、IPAもほとんど、程度の差こそあれ「ゴールデンエール」なんです。だから、もはや色と味わいが一致しないことの方が多いんです。

実はこれ、英国のいわゆるマイクロブルワリーたちが仕掛けた「トレンド」なんです。

英国のビール産業における量的なプレゼンスこそ微々たるものですが、トレンドセッターとしてのマイクロブルワリーの役割には、実は非常に大きなものがあります。たとえばPitfield Brewery(最近はオーガニックにも熱心ですが)が古い文献をひっくり返して「失われたフレーバー」を見つけ出し、それを商品化したことで、有名なFuller'sのロンドンポーター(日本では冬の定番として、ケグで楽しまれた方もおられると思います)やMarston'sのOld Empire IPAなんかが生まれましたし、Envileがハチミツを醸造に使い始めたことで、Young'sのWaggle DanceやFuller'sのOrganic Honey Dewなどが誕生したわけです。あ、Badger(Hall & Woodhouse)のピーチエールGolden Gloryにしても、その前にBuffy'sみたいなマイクロブルワリーたちがフルーツエールを造りはじめてましたよね。最近では環境に配慮したエールや、ベジタリアン向けに動物性澱下げ剤(アイシングラス)を使わないことを謳ったエールなどの新商品が出てきましたが、いずれも小規模ブルワリーが仕掛けたトレンドです。

昨今のそういったリアルエールのトレンドにおける最も大きな波が、ゴールデンエールなのです。

ゴールデンエールが生まれた20数年前は、エール産業全体が、「ダークからライトへ」の大転換期でした。時代を少しさかのぼれば、ポーターは第一次大戦中にモルトが配給制になったことで絶滅しましたが(もし英国政府がアイルランドの醸造所に対して同じような配給制を実施していたら、スタウトも同じ運命をたどったことでしょうね)、戦後の好景気時には絶大な支持を集めたダークマイルドも、今や絶滅寸前です(ここ最近は状況が変わってきている?これは後で詳述)。マイルドの消費量は1950年代にビターに抜かれましたし、ラガーは1970年代の終わりには人気のピークが過ぎ、今やリーズおよびマンチェスター周辺で造られているのみです。

トレンドとしてのゴールデンエールは、サマーセット州のExmoor BreweryがリリースしたExmoor Goldとソールズベリの超有名ブルワリー、Hop Back Breweryの代名詞、Summer Lightningをもって端緒とするのがいいのではと思います。確かにBoddingtonsやWem Pale(Wemは2008年、Hanby Alesに買収されました)、Three Tunsの通常ラインナップたちも明るい色のエールですし、ダドリーのHoldensや今はなきルートンのGreen'sやワイト島のBurtsなども30年前から「ゴールデン」あるいは「ゴールド」という名前のエールを販売してきました。でも1990年代になって初めて、「金色のエール」というトレンドが生まれ、「ライトなボディとライトな色合い、ほとんどアンバランスなレベルのホッピーフレーバー」という特徴を備えたエールが大量にリリースされたのです。これはおそらく、当時(というか今も)人気があったコンチネンタルラガーに対抗するためだったのでしょう(というか、EverardsのSunchaserみたいな、あからさまにコンチネンタルラガーな銘柄も造られています。「味がない」とエールラヴァーたちからは酷評されていますが…)。
このトレンドは、1996年の夏を経て、さらに強固なものになりました。この年の夏は非常に暑く、多くのエールラヴァー達もさすがに冷たいラガーに浮気したのです。浮気できない小心者(笑)は、ゴールデンエールに慰めを求めました。余談ですが、この暑さのためにエールの流通システムが大打撃を受けました。ほとんどのカスクエールが輸送中に変質してしまい、さらに爆発(!)したカスクも多数あったとのこと。

そんなこんなで、ゴールデンエールは「売れるエール」として業界に認知されていきました。例えばCAMRAの「Good Beer Guide」(毎年春に発売されます)のバックナンバーをひも解くと、1996年版には「ゴールド」の名前を持つエールを造っているブルワリーは22ヶ所でしたが、1998年度版ではそれが55ヶに増加、2007年には134ヶ所と激増しています。それを裏付けるかのように、ゴールデンエールは2001年以降、CAMRAが選ぶChampion Beer of Britainを毎年のように獲得しています。ここに及んで、ゴールデンエール部門が2005年に新設されました。2005年と2006年は2年連続でCrouch ValeのGoldが受賞しています(同時にSupreme Championも獲得)。ちなみに、それに追従するかのように、1996年にはゴールデンエールを造る大手醸造所は3ヶ所しかなかったのに、2007年には16ヶ所に増えています。

でも、ここで注目すべきはもはやゴールデンエールではなく、2007年はHobsonsのMild、2009年はRudgateのRuby MildがSupreme ChampionのGoldを受賞しているという事実。実はロンドンはヴィクトリア駅近くに、毎日マイルドを3種類提供しているという非常に奇特なパブがあるのですが(特に名は秘す)、そこで若者を中心にマイルドの人気が復活しているという話を聞きました。その時はまさかと思って聞いてましたが、今度はマイルドの復権が静かに進行中なのでしょうか??

Rudgate Ruby Mild
Ruby Gold、ちゃっかりもう飲んでます。ややオイリーでタバコ系スモークフレーバーが少々。チョコレートやベリーも感じます。ボディもしっかりあり、ドライなモルトの味わいも好ましい。完成度の高いマイルドですが、その分、マイルド特有の持続力が弱さを物足りなく感じたりもします…。消費者は勝手です。


マクロな目で見ると「伝統的」なリアルエールですが、ちょっとミクロな視点で見直してみると、実は栄枯盛衰、新陳代謝を繰り返すダイナミックなムーブメントが見えてくるよ、というお話です。

ではまた今度。Keep on drinking good beer!!

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olubayo

Author:olubayo
日本唯一の英国リアルエールエージェント兼セラーマン。大阪外国語大学卒業後、某大手新聞社を早期退職。翻訳をしながら某料理雑誌記者という二足のワラジ時代を経て、一念発起してシチリアの超自然派ワイナリーで修業。ワイナリー設立の資金集めのため、もう一つの偉大な醸造酒文化である英国の「カスクコンディションリアルエール」を日本に紹介する仕事に奮闘中~
お店でリアルエールを提供したい方、一度飲んでみたい方、業態開発をお考えの方、みなさん大歓迎です。どこへでも説明に伺いますよ!

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