2010-01-26

エールの泡について

さてさて、ご無沙汰しておりました。
ご無沙汰してたってことは、現実世界が忙しかったということです…。
ていうことは…近々リアルエールラヴァーのみなさんに、嬉しいお知らせができるかも!?

ま、期待せんと待っといてくださいね。

今回のエントリは、前回の二酸化炭素ネタに引き続いて、エールの泡についてお話します。
ビールの泡(英語では「ヘッド」と言います)というものは、とかく好事家のネタになりやすいものでして、やれグラスにおける液体との比率だの、泡の細かさだの、エンジェルリングだの何だの…。それはかの国のエールラヴァーたちも一緒です。パブのカウンターで、口角泡を飛ばして(エールの泡じゃないですよ)議論するわけです。ときには感情的になることも。ま、そんなときは、以下に書くように、あなたがテクニカルに話せば済む話。何パイントも飲んだ後に、頭がうまく働くは保証しませんが…。

そもそも、何があの泡を作るのでしょう?まずは試しに水をグラスに勢いよく注いでみてください。泡は出ませんよね。つまり、水が持っている特性ではありません。じゃあ今度は、炭酸の入った清涼飲料水を注いでみてください。おお、勢いよくヘッドが形成されます。でも、ビールのヘッドのように持続力を持っているわけではありません。ということは、炭酸ガスが持っている特徴でもないようです。
実はあの持続的な泡を生みだす原因物質は、ビールの中に存在する微量成分、具体的に言うと、ある特定のタンパク質なのです。一杯のビールの中には、おびただしい量の有機化合物が含まれているのですが、その中に「糖タンパク質」と呼ばれる一群があり、それがビールの泡を作りだしているのです。
糖タンパク質というのはけっこう大きな分子でして、便宜的な言い方ではありますが、「頭」と「尻尾」があります。この両端は正反対の特性を持っておりまして、頭は疎水性(水をはじく)、長い尻尾は親水性(水となじむ)なのです。ビールの泡が形成されると、この糖タンパク質が泡の表面に上ってきます。疎水性の頭部が泡の表面上に顔を出そうとする一方(疎水性ですから)、尻尾は泡の中にとどまろうとします。結果、泡の表面には一種の膜のようなものが形成され、泡の粘性が増加し、泡の構造が維持されるのです。

とはいえ、糖タンパク質だけでビールの泡について語れるのかと言えば、そんな簡単な話でもないわけで。むしろこれから書く内容の方が、世のビール飲みたちが日夜繰り広げている熱烈な議論において、あなたを色々な意味で優位な立場に立たせてくれるでしょう(笑)。リアルエールのヘッドはどのようにして形成されるのか、そしてヘッドの中にどのようなガスが入っているのか、そしてヘッドの見た目、そしてヘッドはどのようにビールの味わいに影響を与えるのか???結構調べたので、このブログの読者の方々だけに、こそっとお話ししますね。

エールをグラスに注ぐ方法はいくつかあるわけですが、グラビティシステムや短い注ぎ口がついたハンドポンプなどの場合、提供時にグラス内に生じる対流によって泡が生成されます。この場合、泡のサイズはバラバラで、ゆるいヘッドを形成します。これはイギリス南部で良く見られるヘッドのタイプで、大きくて不均一な泡の中には、相当量の空気が含まれています。このようなタイプの泡は、ビールの味わいに大きな影響を与えることはありません。
これとは別に、ハンドポンプの注ぎ口にスパークラーが取り付けられている場合もあります。エールはスパークラーに開けられたたくさんの小さな穴を通ってグラスに注がれますが、その際に2つの変化が生じます。一つは穴を通過するときの刺激で二酸化炭素が液体から遊離し(缶入りの炭酸飲料を振ってから開けた時と一緒です)、もう一つには小さな水流によって泡に抱きこまれる空気の泡サイズがより細かく、均一になります。このようにして形成された固めのヘッドは、通称「ヨークシャー・ヘッド」と呼ばれ、北部に行くほど一般的に見られるようになります。こちらのヘッドは味わいにも影響を与えます。二酸化炭素が液体から遊離する際には、ホップオイルも同時に空気中に放出されます。結果として、グラビティで注いだ場合よりもホップの苦みが和らぎ、炭酸ガスの濃度も少しだけですが低下します。愛好家たちは、これを「スムーズなエール」と呼んでいます(が、いわゆるケグエールの「スムーズ」とはゆめゆめ混同なさらぬよう)。

ところで最近は、「第三の道」が登場しました。もうあちこちで見られるようになって、急速に普及した感もあります。名前を「スワンネック」と言います。文字通り、白鳥の首のような長い注ぎ口がついたハンドポンプのことです。パブスタッフがスワンネックでエールを注ぐ動作を見ていると、注ぎ口をグラスの底にほとんどくっつかんばかりにしてエールを注いでいます。エールが、グラスの底からズーっとせりあがってくる感じです。「あれ、空気抱き込んでへんやんけ。これじゃヘッドできひんやん」て思ってみていると、なんと細かくてきれいなヘッドが形成されているじゃないですか!?
このスワンネック、簡単な物理学の定理を応用したものなんですね。高校の授業でその定理の名前を聞いたことがある方もおられるでしょう。「ベルヌーイの定理」てやつです。実際はややこしい計算式が出てきて軽い頭痛を起こすので、文字でもって簡単に説明します。

「流体の流速が上がると、圧力が下がる」


ということです。「そう言われても直感的には分からんわ」という方々のために、ハンドポンプを通って提供されるエールの状態で、具体的なイメージをつかんでみましょう。
以前説明したように、ハンドポンプは井戸の原理でエールを樽から吸い上げます。チューブラインを通ってポンプアップされたエールは、チューブの内径よりも細いスワンネックを通過します。ここで、チューブ5cm分のエールの量を想像してください。このエールがスワンネックを通る際には、当然見た目の長さは5cmより長くなります(便宜的に6cmと仮定しましょう)。でも、あとからあとから吸い出されてくるエールの流速は変わりません。つまり、スワンネックを通るときには長い距離を同じ時間で通過しなければならない訳です。つまりエールの流速が上がるのです。ということは、スワンネックの中を通るエールは、一時的に低圧状態に置かれるわけです。

はい、圧力が下がった分だけ二酸化炭素が液体から放出されますね。放出された二酸化炭素は液体の中を通り、その間にホップオイルを始めとしたアロマ成分を遊離させながら、グラスの上部にあがってきます。その結果、固くてタイトなヘッドを形成するのです。それと同時に、液体中の二酸化炭素濃度が下がるので、飲み心地もスムーズになります。また、香り成分も感知しやすくなります。

ここまで説明すると、必ず「じゃあ、絶対オレはスワンネックだな」と一人合点する方がおられます。でもちょっと待ってください。コトはそうそう簡単なものではありませぬ。いみじくもジョージ・オーウェルが言ったように(彼は別にエールについて言ったわけではありませんが)、ゆるいヘッドも、固いヘッドも、スパークラーもスワンネックも、すべては嗜好の問題なわけです。嗜好とは後天的なものですから、自分の育った環境に多く依存するわけで、南部で育った人なら、ゆるいヘッドを好む人が多いでしょうし、北部ならヨークシャーヘッドでしょう。ちなみに私は最初にエールを飲み倒したのがボーンマスなので、当然ゆるいヘッドを好みます。最初は硬い印象のエールが、グラスの中で徐々に開いていくのを楽しめるというのもありますし。
加えて醸造担当者が、どのように提供されるかを企図してそのエールを造ったのかということも考慮する必要があります。そういった造り手の意図や地域性といったものを無視して、例えばすべてのエールをスワンネックで提供しているようなパブがあれば、それは単にマネジメントの欠陥と見るべきでしょう。さらに、ある客がスパークラーを用いて注いで欲しいと言っているところを、「いいえ、ウチはやりませんので」と拒否するようなパブも一緒です。そんなパブのたわごとに付き合わされそうになった時には、みなさんは勇気を持ってそのパブから出ていき、毅然と拒否の意思表示をしてください(その地域にパブが一軒しかないときは悲劇ですけどね)。

では今日はここまで。次回のネタは…。考えときます。

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2010-01-14

気が抜けているわけではありませんよっ!リアルエールの炭酸ガスについて

いやー、寒い一日でしたね。部屋で暖房全開にしても、靴下2枚履き、ズボン2枚履き、上着4枚(笑)。手袋までしてキーボードたたいてましたよ。一人身になった今では部屋が不必要に広いので、寒いのでした(=_=)

さて、気を取り直してと。

エールを「気が抜けたビール」(怒)などと言う方がおられるように、エールの炭酸ガスについてはかなり誤解が多いです。なので、今回はリアルエールの二酸化炭素についてお話しますね。私はリアルエールのエージェントであると共にセラーマンなわけですが、そのセラーマンという職業の、一番重要な部分がこの二酸化炭素(以下CO2)のコントロールなのです。それでは、具体的に見ていきましょう。

ご存じのように、CO2というのは無味無臭のガスでして、発酵の過程において、アルコールの次に多く生成される物質であります。自然界の中では、大気中にごく少量(0.037%)含まれていますね。その大気中の他の気体(酸素と窒素)と比べたCO2の大きな特徴は、水に溶け込みやすいということです。つまり、もしこの特徴がなかったら、大気中のCO2の割合は今よりずっと大きくて(海中にある分が空気中に放出されるわけで)、われわれ生物は地上で生きていけなかった。ま、とにかく、その特徴があるからこそ、私たちは美味しいビールが飲めるってわけです。なので、先に申しあげたように、エールのCO2濃度(これを「コンディション」と呼びます)を最適化することが、エールセラーリングの最重要課題なのです。ちなみに、定温(13℃)のセラー内では、1パイントのエールの中には、平均して1パイント強(常圧での容積換算)のCO2が含まれています。

ビールの中に含まれるCO2量を決める要素は3つありまして、一つ目は「液体の温度」、二つ目は「ビールの液面にかかるCO2の圧力」、そして最後に挙げられるのが「最初の2つの要素が、直近の数時間でどのように変化したかという経過」です。もし温度とCO2圧力が一定であれば、カスク内のビールにおける溶存ガス量は、どんなに時間が経っても増減することはありません。この事実が実は結構理解されていなくて、カスク内にビールが入っている時間が長いほど、溶存ガス量が増加すると考える人が結構多いのです。

一つ目の、温度がガス圧にもたらす影響というのは、みなさんも経験からおわかりかと思います(冷えたラガーはおいしいでしょ?)。つまり、液体の温度が冷たいほど、溶存CO2量が増えるのです。このことはつまり、セラーの温度が数℃上下しただけで、オーバーコンディションと呼ばれる状態になったり、あるいは反対にアンダーコンディション(いわゆる気が抜けた状態)となることを示唆しております。じゃあどちらがより致命的なのかといいますと、やはり後者でしょう。この場合、提供時にどんな冷却器を使っても修正できません(ガス添加はダメですよ。リアルエールなんだから)。

二つ目のCO2の圧力ですが、これはちょっと難しいです。なのでスムーズに理解するために、物理学の話を少々させてください。この場合、考える必要があるのはCO2の絶対圧力です。他の気体、たとえば酸素や窒素は無関係です。空気のような混合ガスにおいては、各気体の圧力(=分圧)がそれぞれ独立して作用し、ビールの液面における全ガス圧となります。「混合気体の全圧は、各気体の分圧の計に等しい」という、ドルトンの法則ってヤツですね。つまり大気中(1バール=1000ミリバールの場合)の分圧は、約200ミリバールの酸素、800ミリバールの窒素、そして計測不能なくらいにごく少量のCO2ということになります。だからフタをしないでビールを放置しておくと、炭酸ガスが抜けてしまうのです。
ちなみに、半日以上静置したカスクコンディションエールをセラー内でヴェンティングすると、13℃の場合はだいたい1.1v/v(液体中のCO2濃度を表わす単位というのはいくつかあるのですが、リアルエールの世界では「volumes/volume」略してv/vという単位を用います)の溶存CO2量に自動的に落ち着きます。炭酸ガスは味覚に対して最も大きなマスキング効果を持つので、これが数℃下がるとエールの味わいが弱くなります。反対に数℃上がると、気が抜けた味わいになってしまいます。

今さらっと書きましたが、このことは重要です。つまり、
リアルエールにおいては、弾ける炭酸ガスの冷たいのど越しではなく、ホップと麦芽が生みだす複雑な味わいに力点がおかれているのです。より深い味わいのために、あの炭酸ガス濃度にする必要があるのです。

さて、セラーにカスクが到着し、ラックに乗せられた時点(つまりヴェンティング前)では、カスク内に存在するガスというのはCO2だけですが、カスクに詰められてからずっと進行中の2次発酵工程によってCO2のガス圧は高まっており、一部は液体中に溶存し、一部は気体となっています。これはこれでバランスが取れているのですが、この状態でカスクをヴェンティングすると一気に余分なガスが放出され、空いた空間に、過飽和だった液体中のCO2が気化していきます。この一連の作業の中で液体温度が適温のまま変化しなかった場合、このまま数時間経過すると新しいガス圧のバランスが完成し、コンディショニングはこれで完了します。この時点では、カスク内の二酸化炭素の圧力が、大気圧と等しくなっています。

このカスク内の環境は、エールが消費されていくに従って変化していきます。これは私が今回輸入計画を立てているポリピンではなく、通常のアルミカスクからハンドポンプで提供する場合でお話しますね。アルミカスクは硬いので、ハンドポンプによってエールが吸い出されると、内圧が下がってある時点からはエールを吸い上げることができなくなります。そのため、ヴェンティング後のカスクには「ソフトスパイル」という、空気を通す素材(主に木材)でできた栓が刺さっています。これを通して、カスク内の空隙には空気が入ってきます。つまり、エールが消費されていくにつれて酸素や窒素の分圧がかかってきて、CO2の圧力が下がっていくわけです。気が抜けていくわけです。

まさにこの部分、カスクが空になるまでにどのくらいのCO2を液体内にとどめておけるかがセラーマンの腕の見せ所です。

口切りからカスクが空になるまでの時間が短ければ短いほど、セラーマンの仕事は楽になります。しかし状況によってその時間の長さは千差万別。数時間で空になることもあれば、数日かかることもあります。予想できない出来事に対処するために、なるべく多くのCO2をカスク内に残しておくことは重要です。そのため非提供時には、先ほどのソフトスパイルではなく、ハードスパイル(気体を通さないタイプ)を使うのが必須です。
まあ、ポリピンの場合は内圧が下がると同時に容器自体が縮んでいくので、CO2が抜けるという恐れはありません。そういった意味でも、ポリピンは扱いやすいのです。ただ、私が輸入用に用いるポリピンは厚みがあるので、ある時点からは縮みません。空気を入れて、内圧を調整する必要があるのです。そうなったときに、どうやって溶存CO2をコントロールするのか?

それが私のノウハウでございます(笑)。知りたい方は、直接私まで。

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2010-01-11

マイルドエールって、何が「マイルド」なの?

少し更新の間隔が開いてしまいました。ちょっとプライベートで色々あったもんで…。
さてさて、今日は前回のエントリの続きといっちゃなんですが、「マイルド」というエールのスタイルについて書いていきます。

世界最初の産業革命が起きる以前、つまり18~19世紀より前、すべてのビールは濃い茶色でした。その理由は、麦芽が薪火の窯で焙煎されていたからです。その時代のビールはすべて、スモーキーなアロマとフレーバーを持ち、また木製樽での長期熟成により乳酸が生成されるため、多少の酸味を伴っていました。今でもベルギーではこのスタイルのビールが残っている地方がありますし、イギリスでも、Greene KingのStrong Suffolk Aleを筆頭に、いくつか残っています。こういった産業革命以前の茶色いビールのうち、ほとんど樽熟成を行わないものを、本来はマイルドと呼んでいたわけです。つまり、酸味が「マイルド」なんですね。ちなみに当時、こういう若いブラウンエールは、ペールエールやオールドエールと混ぜ合わせ、ポーターやスタウトを造るのにも使われました。

18世紀の後半にもなると産業革命が進み、機織り機や溶鉱炉、坑道などで働く労働者たちが、長時間労働の後のリフレッシュ飲料として、ポーターより甘みのあるエールを要望するようになります。偶然にもその時期、醸造所側では、長期間の樽熟成にかかるコストを削減したいという希望がありました。両者の思惑が一致して、深煎りのモルトを使用し、熟成による酸味のない「マイルド」というエールが完成したのです。ただこのスタイルも、薪窯に替わりコークス窯が発明され、ペールモルト(淡色モルト)が広く作られるようになるにつれて変化していきます。ペールモルトは、クリスタルモルト、ブラックモルト、チョコレートモルト(いずれも深煎りモルト)とブレンドされ、さらに糖分やカラメルを添加することにより、より甘みの強いマイルドへと進化していったのです。ちなみに最近のマイルドエールは、さらに高品質の深煎りモルトを使うことで、以前とは比べ物にならないくらいの味わいの深みを表現できるようになっています。また、明確に甘いマイルドはあまり見かけませんね。

英国全土のビールの売り上げのうち、マイルドはわずか1パーセントを占めるにすぎないという現状からは想像できませんが、19世紀から20世紀にかけては、マイルドは英国で最も人気のあるビールでした。そうですよね。当時は肉体労働者が最も多かったわけですから。それを証明するようにマイルドは、英国の産業構造が変わった1950年頃にはほぼ絶滅してしまいます。
まあ、これは産業構造だけが理由ではなく、「マイルド」という名前が持つ残念な宿命のためでもあります。その名称ゆえに、マイルドは「ビター」より弱い、具体的にはビターより甘くて、ホップが少ないエールだと思われてしまうことが多いのです。もっとも、そのイメージは正しくありません。1871年に発行された「Arts of Brewing」によれば、一般的なマイルドは7%のアルコール度数を持つとされていますし、20世紀前半におけるマイルドの平均アルコール度数は5.5%でした。この時代のマイルドは、今もマイクロブルワリーによって造られています。代表的な銘柄としては、Sara HughesのDark Ruby Mild(6%)あたりですかね。

「労働者の飲み物」ということで売れなくなったマイルドに対して、醸造所側はアルコール度数を下げたり、名前から「マイルド」をはずすなどの消極的(笑)な措置で対抗します。BanksのMildがOriginalと改名したのがいい例ですし、McmullenのAKはビターとして販売されました(実際は非常に珍しい、ライトマイルドの逸品ですが)。

でも最近、やっぱりちょっとマイルド復活の兆しがあるみたいですね。現在マーストン傘下でリリースされているBanksのOriginalは、マーストンのウォルバーハンプトン工場の稼ぎ頭ですし、2000年にMoorhouseのBlack Cat MildがChampion Beer of Britainを受賞してからは、多くのマイクロブルワリーがマイルドを製造しています。さらに2007年はHobsonsのMildが、2009年はRudgateのRuby MildがSupreme ChampionのGoldを受賞しています。そのムーブメントは、米国にも飛び火しました。少なくない数のブルワリーが、「ブラウンビール」を造っています。あんまり米国のビール知らないんで、ぱっとはBrooklynのBrown Aleくらいしか思い浮かばないですが…すみません。やはり、特に米国のホッピーなビールに慣れた消費者に配慮して、「マイルド」の名称はここでも使われていないんですね。

ちなみに、昨年は私もだいぶマイルドをフォローしました。以下にテイスティングノートを少々。

Derby Pale Mild Moment 3.6% Derby, England
Dearby Pale Mild Moment
ゴールデンマイルド。青すぎるホップフレーバーが強烈。コーンみたいなアフター。うん、マズい。笑

Holdens Black Country Mild 3.7% Dudley, England
テイスティングのみ。コンディションが悪かった。軽薄な印象しかない。残念。

Hobsons Mild 3.2% Cleobury Mortimer, England
モルト麦茶。いい香りで期待度がUPする。ビタリングホップが結構効いている。少し火打石的なSO4フレーバーあるも許容範囲(コンディショニングの問題?)。アルコールを上回る充実した味わい。きちんと甘く、アフターやや長め。本当によくできたマイルド。

Goachers Real Mild 3.4% Maidstone, England
コーヒー、カカオ、納豆系イーストアロマ。多少コンディショニングしすぎだったんだと思う。だからこれといった特徴はないものの、とりあえずどんぴしゃにピントが合っているのがスゴイ。さっぱり系。とてもdrinkable。名前の通りのリアルマイルド。

Pilgrim Moild 3.8% Reigate, England
ブドウ系のフルーティーアロマ。追ってローストタンニンのあるモルトフレーバー。バブルガム系エステルが効いててユニーク。好みじゃないけど旨い。

White Dark Mild 4.0% Bexhill, England
テイスティングのみ。集中力ない感じでかなりwatery。酸味強すぎ。マズー。おそらく劣化してたと思われる。本来こんな造り手じゃないはず。

Moorhouse Black Cat 3.4% Burnley, England
Moorhouse Black Cat Mild
醤油→ダークチョコレート→黒い果実→ホップレジンという重厚なフレーバー構成。ローストフレーバーが全体に。チョコレートモルト使用。ピントが硬い感じで好感。輸入に堪えるかも?

Cains Dark Mild 3.2% Liverpool, England
Cains Dark Mild
リバプールのリージョナル。向こうが見えないくらい真っ黒なマイルド。少しピーティでヨード香がある。コーヒー的なアロマ。醤油→チョコレート→酸味。追ってローストタンニン。かなり締まった印象。おそらく口切りだと思われる。空気に触れることにより、グレープフルーツ系のアロマが立ち上がる。カスクにドライホッピングしてるせいかな?控えめな甘みもあり、バランスよし。

Elgood's
Black Dog Mild 3.6% Wisbech, England
Elgood's Black Dog Mild
スモーキーなモルトの甘みが全開なマイルド。もう少し酸味が欲しいかも。タンニンの収斂性はやや控えめ。特に魅力はないと思う。

Beckstones Black Gun Dog Freddy Mild 3.9% Millom, England
Beckstones Black Gun Dog Freddy Mild
モルティ。麦茶系の濃ゆいアロマ。強めのエステル。それ以外はやや単調かな。余韻もかなり短い。

Dark Star Old Chestnut 4% Haywards Heath, England
Dark Star Old Chestnut
昔は「Old Ale」と呼ばれていた。モルティ。カラメル混じりのフルフレーバー。醤油、次いでゴールディングスホップアロマ。ナッティなフレーバーが残りながらドライに切れていく。だいぶ濃い目、なのにキレるマイルド。あまり見ないスタイルではある。

Otley Dark-O 4.1% Pontypridd, Glamorgan, England
Dark Star Dark-O Mild
現代風に翻訳したマイルド。非常にはっきりした、深みのある麦茶アロマ。スモークアロマも強め。で、キレる。タンニンとか甘みとかに頼らず、アロマとフレーバーだけでモルトを表現して、それでいて味わいをおろそかにしない。ファグルズホップが効いてる。新しいスタイルだと思う。でも、今はブルワリーが「スタウト」扱いしているらしい。今すぐ飲めるスタウトね。

St. Peters Mild 3.7% Bungay, England
チョコレートモルトを使ったマイルド。アロマがエステルというか、トロピカルフルーツっぽい。ボディがあんまりないよね。うーん…。

Bateman’s Dark Mild 3.0% Skegness, England
これは旨いマイルドだと思う。北の赤いフルーツアロマ感じる。モルト甘く、酸味といいバランスを保っている。ホップはやや強めだが好ましい。アルコール低いのに、複雑。でチャーミング。こんなマイルドもあるんだね。

Rudgate Ruby Mild 4.4% York, England
Rudgate Ruby Mild
ルビーというほど赤みがかっているわけではない。あくまでダークルビー。強いチョコレート~コーヒーのアロマ。少しナッティアロマあり。非常にオーソドックスな構成。赤いフルーツ少々。ビタリングホップがちょっと強め。モルトの甘みもある。少しアルコール高めなので、飲みごたえのあるマイルドになっている。CO2が非常に細かいのも特徴。

まあ、いずれにせよ、マイルドは個人的に大好きなスタイルです◎特にランチタイムにパニーニ(イタリアかよ)と食べるのがお気に入りです。

次回は、どうしましょうかね?リアルエールにおける炭酸ガスのお話でもしますか。

では!Keep on binge drinking!:D

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2010-01-08

お金が入ってこなくてもリアルエールエージェント。生業ですから!

今日は今までとちょっと違う内容のエントリです。

2件目のエントリ「ついに都内に英国リアルエール専門パブ開業!!のはずが…」でお話したように、現在私はプーさんです。実は、こういう状況(お金が出ていくばっかりで入ってこない)におかれるのは今回が初めてでして…。

いや結構堪えるもんですね。「オレ、社会的に評価されてへんやん」て考えちゃって、つい最近までそーとーな鬱状態でございました。特に昨年の前半は、何度も持ち出しで現地調査に出かけてたので、「あーあ、やっぱりお金無駄にしちゃったかなあ…」と考えてしまうし、社会的評価がないってことで自信もなくなっちゃうし、そんな私を見てられなくて嫁さんも逃げちゃったし。

でも、でもですね、これまでの人生をずっとサブカル部門で生きてきた私(笑)にとっては、こんなこと、これまでに何度もあったんですよね。じゃあ、なんで今回に限ってこんなに自信ないのかな?と年末年始はずっと一人で自問してました。

それは、自分が今までの人生を無為に過ごしてきたのでは?だからこんな状況になってしまったのでは?と心のどこかで思ってるからなんだと思い至ったのがつい数日前。

実を言いますと、以前のリアルエールパブ開店プロジェクトの時も、最後の1カ月半くらいは、会社本体の資金繰りが悪かったようで、私は文字通り「飼い殺し」状態だったわけです。もうロジスティクスは完成して、ゴーサインがあればすぐにでも動ける状態なのに、「まだ店舗物件が決まらない」とか「もう少し待ってくれ」などと言われ続けてたのです。だから私自身としては、もう長い間、ちゃんと仕事をしてこなかったような気がしてて…。

結構テンパってたので、オフィスワークの派遣会社にも登録に行きましたよ(私、昔は派遣社員で翻訳の仕事をしていたんです)。でも、ワードはともかく、エクセルのスキルチェックがボロボロだったりするわけで、そこでまた落ち込むわけです。そして、応募した仕事に対して「残念ながら、本件はご案内できません」とメールで返信がきたりすると、なおさら…。

ダメなときはダメな方にしか、安易な方向にしか、ココロが向かわないんですね。あれだけ時間労働が嫌で辞めたオフィスワークなのに…。

それを救ってくれたのが、私の親父でした。先日と私がクヨクヨと電話したら、「そりゃそうだ。お前がPCスキルだけで誰かに勝てるわけないだろう。食の世界にしろリアルエールにしろ、その誰も持っていない知識と経験が、お前の生命線なんだから」と電話口で笑い飛ばしてくれまして。

先日テレビを観てたら、NHKで「プロフェッショナル 仕事の流儀」をやってました。有機農法の世界では超有名人の金子美登さんが出ておられました。彼は有機農法が軌道に乗るまで10年もの間、辛抱したそうです。その間、農家をやめて別の仕事に転職しようと考えたこともあったとのこと。彼の話を聞いていたら、シチリアで自然農法のブドウ栽培に携わっていた私の記憶が蘇ってきました。自然農法は身体と精神に非常に厳しいイデオロギーだったけど、毎日が充実してたよなあ…。

「ベストを尽くして、我慢する」
「困難こそ、楽しめ」

彼の言葉は心に染みわたりました。そうだよなぁ…。自然を相手に、身体と頭をフルに使う仕事。それをいつか実現するために、オレは今、リアルエールのエージェントなんだよな。そしてそれは、オレが仕事だと思ってるから仕事なんであって、それは現状、お金を生む生まないの話じゃないんだな。
そういえば、以前働いていたワイナリーのオーナーに「オレは将来ワインメーカーになりたいんだ」と話したら、「お前がそう思って今動いているなら、お前はすでにワインメーカーだ」て言われたことも思い出しました(つまり、私の現在の肩書は、実は「ワインメーカー」と「リアルエールエージェント」の二つなわけですね^^ゞ)。

そう思ったら、なんだか気持ちがすーっと楽になりました。

今がこんな状況なら、今しかできないような、リアルエールの仕事をしようと思いました。時間がある今だからこそできる仕事。だから、頻繁にこのブログに記事を投稿しているんです。古い資料を整理して、ネタを考えて、自分の考えをまとめる。ちょっとしたセラピーと言えるかもしれません。元気になります◎

ビールを愛するみなさんに向かって、自信を持ってリアルエールへの情熱を伝えていくこと。これも、リアルエールエージェントの大事な仕事だと思っています。新しいことで勝負をかける時、こんなことこれからも沢山あるでしょうしね。めげてる時間などありませぬ。

日本のビール愛好家のみなさんに、本当においしいリアルエールをお届けしたい。

近いうちに絶対実現しますからね!
「焼き鳥&リアルエール」とか「串揚げ&リアルエール」とか、はたまた「超本格的なガストロパブ」とか
新規飲食業態をお考えのみなさん、いつでもご説明に伺いますよぉ!

ちなみに私の中で世界ランキング1位のパブがここ↓↓。デヴォン州はHONITONにある「THE HOLT」。Freehouseと書いてありますが、Otter Breweryの直営です(2008年に、新たに)。世界最先端のガストロパブです。オーナー兄弟は若いですがやり手でして、一度話したことがあります。ここの日本店を出すというネタもあるんだけどなー…。
オッターブルワリーの直営パブ「THE HOLT」
ちなみに、伝統的パブフードであるレアビットも、ここのシェフ(ロンドンの某有名フレンチからのUターンらしい)の腕にかかるとこーんな一皿に。もんっのすごく旨いです。もはやパブ飯ではありませぬ。
THE HOLTのレアビット
このパブについてはいずれ詳しく◎

では!Keep on drinking ale!






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2010-01-06

リアルエールは不変じゃない~ゴールデンエールに見る栄枯盛衰物語~

数年来、英国のリアルエールシーンを追っている私ですが、現地フィールドワーク(という名のはしご酒)の際には、必ずデジカメとメモを用意して臨みます。すべてはテイスティングノートのためです。

  1. ハーフパイントを注文

  2. 飲む前にその銘柄のポンプクリップがついたハンドポンプの前でパチリ

  3. 色を確認して、メモをとる

  4. 香りを聞き、メモをとる

  5. 軽く口に含み、空気を取り込むようにして味わいを見、メモをとる。吐きださず、舌の後ろからのどにかけての味わいも忘れずに確認

  6. あとは普通にグビグビと◎


というのが、現地のパブにおける、私の儀式です。

Milk Street Brewery Beer! with pump clip
画像はドーセット州ローカルのMilk Street Breweryの限定品、「Beer!」。とてもユニークで、パンドカンパーニュのようなイースト香があり、飲み口はキレまくります。そして複雑なモルトフレーバー。

上記の儀式を毎日、最低10種類(フェスティバルの時なんかは30種類を超えます)のエールについて行います。この行為、ローカルのエールラヴァー達にはアピール度十分でありまして(笑)、大体3杯目くらいに、誰かしらに声をかけられます◎みんなおじいちゃんばっかで、若い女の子じゃないというのが、いささか物悲しいところではあります。

それはおいといて。

今回のお話は、それら一連の行為のうちの3番目、「エールの色」についてです。

エールの色は、一般的にはそのエールの味わいを示すものとされていまして、お客が「今日は○○色のエールをくれ」と言うのはパブでよく見る光景です。また店側でも、ハンドポンプの脇にその銘柄のエールが入ったショットグラスを置き、どんな色のエールなのかを見せているところもあります。
しかし特に去年、一昨年あたりはノートを取る時に悩みました。どのエールを見ても、まあ金色ばっかりなこと。「カッパー」だの「アンバー」だの「ハニー」だのと枕詞をつけてみても、ベースは金色。ビターは9割がた、IPAもほとんど、程度の差こそあれ「ゴールデンエール」なんです。だから、もはや色と味わいが一致しないことの方が多いんです。

実はこれ、英国のいわゆるマイクロブルワリーたちが仕掛けた「トレンド」なんです。

英国のビール産業における量的なプレゼンスこそ微々たるものですが、トレンドセッターとしてのマイクロブルワリーの役割には、実は非常に大きなものがあります。たとえばPitfield Brewery(最近はオーガニックにも熱心ですが)が古い文献をひっくり返して「失われたフレーバー」を見つけ出し、それを商品化したことで、有名なFuller'sのロンドンポーター(日本では冬の定番として、ケグで楽しまれた方もおられると思います)やMarston'sのOld Empire IPAなんかが生まれましたし、Envileがハチミツを醸造に使い始めたことで、Young'sのWaggle DanceやFuller'sのOrganic Honey Dewなどが誕生したわけです。あ、Badger(Hall & Woodhouse)のピーチエールGolden Gloryにしても、その前にBuffy'sみたいなマイクロブルワリーたちがフルーツエールを造りはじめてましたよね。最近では環境に配慮したエールや、ベジタリアン向けに動物性澱下げ剤(アイシングラス)を使わないことを謳ったエールなどの新商品が出てきましたが、いずれも小規模ブルワリーが仕掛けたトレンドです。

昨今のそういったリアルエールのトレンドにおける最も大きな波が、ゴールデンエールなのです。

ゴールデンエールが生まれた20数年前は、エール産業全体が、「ダークからライトへ」の大転換期でした。時代を少しさかのぼれば、ポーターは第一次大戦中にモルトが配給制になったことで絶滅しましたが(もし英国政府がアイルランドの醸造所に対して同じような配給制を実施していたら、スタウトも同じ運命をたどったことでしょうね)、戦後の好景気時には絶大な支持を集めたダークマイルドも、今や絶滅寸前です(ここ最近は状況が変わってきている?これは後で詳述)。マイルドの消費量は1950年代にビターに抜かれましたし、ラガーは1970年代の終わりには人気のピークが過ぎ、今やリーズおよびマンチェスター周辺で造られているのみです。

トレンドとしてのゴールデンエールは、サマーセット州のExmoor BreweryがリリースしたExmoor Goldとソールズベリの超有名ブルワリー、Hop Back Breweryの代名詞、Summer Lightningをもって端緒とするのがいいのではと思います。確かにBoddingtonsやWem Pale(Wemは2008年、Hanby Alesに買収されました)、Three Tunsの通常ラインナップたちも明るい色のエールですし、ダドリーのHoldensや今はなきルートンのGreen'sやワイト島のBurtsなども30年前から「ゴールデン」あるいは「ゴールド」という名前のエールを販売してきました。でも1990年代になって初めて、「金色のエール」というトレンドが生まれ、「ライトなボディとライトな色合い、ほとんどアンバランスなレベルのホッピーフレーバー」という特徴を備えたエールが大量にリリースされたのです。これはおそらく、当時(というか今も)人気があったコンチネンタルラガーに対抗するためだったのでしょう(というか、EverardsのSunchaserみたいな、あからさまにコンチネンタルラガーな銘柄も造られています。「味がない」とエールラヴァーたちからは酷評されていますが…)。
このトレンドは、1996年の夏を経て、さらに強固なものになりました。この年の夏は非常に暑く、多くのエールラヴァー達もさすがに冷たいラガーに浮気したのです。浮気できない小心者(笑)は、ゴールデンエールに慰めを求めました。余談ですが、この暑さのためにエールの流通システムが大打撃を受けました。ほとんどのカスクエールが輸送中に変質してしまい、さらに爆発(!)したカスクも多数あったとのこと。

そんなこんなで、ゴールデンエールは「売れるエール」として業界に認知されていきました。例えばCAMRAの「Good Beer Guide」(毎年春に発売されます)のバックナンバーをひも解くと、1996年版には「ゴールド」の名前を持つエールを造っているブルワリーは22ヶ所でしたが、1998年度版ではそれが55ヶに増加、2007年には134ヶ所と激増しています。それを裏付けるかのように、ゴールデンエールは2001年以降、CAMRAが選ぶChampion Beer of Britainを毎年のように獲得しています。ここに及んで、ゴールデンエール部門が2005年に新設されました。2005年と2006年は2年連続でCrouch ValeのGoldが受賞しています(同時にSupreme Championも獲得)。ちなみに、それに追従するかのように、1996年にはゴールデンエールを造る大手醸造所は3ヶ所しかなかったのに、2007年には16ヶ所に増えています。

でも、ここで注目すべきはもはやゴールデンエールではなく、2007年はHobsonsのMild、2009年はRudgateのRuby MildがSupreme ChampionのGoldを受賞しているという事実。実はロンドンはヴィクトリア駅近くに、毎日マイルドを3種類提供しているという非常に奇特なパブがあるのですが(特に名は秘す)、そこで若者を中心にマイルドの人気が復活しているという話を聞きました。その時はまさかと思って聞いてましたが、今度はマイルドの復権が静かに進行中なのでしょうか??

Rudgate Ruby Mild
Ruby Gold、ちゃっかりもう飲んでます。ややオイリーでタバコ系スモークフレーバーが少々。チョコレートやベリーも感じます。ボディもしっかりあり、ドライなモルトの味わいも好ましい。完成度の高いマイルドですが、その分、マイルド特有の持続力が弱さを物足りなく感じたりもします…。消費者は勝手です。


マクロな目で見ると「伝統的」なリアルエールですが、ちょっとミクロな視点で見直してみると、実は栄枯盛衰、新陳代謝を繰り返すダイナミックなムーブメントが見えてくるよ、というお話です。

ではまた今度。Keep on drinking good beer!!

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2010-01-06

誰も知らない、リアルエールの輸出のロジスティクス

こんにちは~
最近、都内はずっと天気がいいですね◎私の本プロジェクトの前途には、活発な雨雲がかかっているようですが…笑
さて気を取りなおして、エントリ行きます。

今回は、ロジスティクスのお話です。こちらもなかなか大変でした。

以前のエントリで書いたとおり、リアルエールは非常にローカルな飲み物です。週に5バレル程度しか醸造しない、文字通り「マイクロ」なブルワリーはザラにありますし、独自の販売網を持たないため、醸造所の半径数十マイルの圏内にしか販売しない蔵元も多いです。また、樽詰め後は基本的に2~3週間で消費してしまうため、長期保存についての情報は「不要」なんですね。

つまり、リアルエールの輸出については、誰に聞いても教えてくれない、というか、知らないのです。

CAMRAの本を読んでみても、やれ「マイルドは数日しか持たない」だの「ストロングエールでも1週間が限度」だの、輸送については批判的な言説ばかり。
しかしアルコール度数に差はあるにせよ、ビールもワインも醸造酒です。前にお話したとおり、私は某自然派ワイナリーで、無農薬、無肥料で育てたブドウを使い、完全無添加でワインを作っておりました。醸造時も瓶詰め時も、酸化防止剤無添加です。この方法は、醸造学においては非常識と言われています(腐造、酸敗が起きるため)。それでも、長期熟成に堪えるワインを作ることは可能なのです(さらに私が醸造担当したワインは今年、ワインスペクテイターで93点をいただきました!)。実際に現場で経験した私だからこそ、感覚的に分かっていたことがありました。

リアルエールも、ちゃんと造ってあるものなら、スタイルを問わず定温コンテナで輸入することが可能だろうし、日本での賞味期限も、最低でも1カ月は問題ないだろう


と。お世話になっているボーンマスのGoat & TricycleのMickも、「CAMRAの連中はうるさ方を自任している連中ばかりだからね。俺のパブでも、実際1カ月保管しても何の問題もないし、オーディナリービターでも、開封後10日は無問題で提供しているよ」と言ってました。ま、普通にやってたら10日は持たないので、そこは色々な器具を使うのですが。

実際、今年だけでも約400種類のリアルエールを英国でテイスティングした私ですが、そのうちの1割弱については、問題なく輸出できると判断しました。「ちゃんと造っている」というところがミソです。具体的に申し上げたいのですが、これは主にテイスティングによってのみ知覚するものであり、それが、私をして「リアルエールエージェント」たらしめている「企業秘密」な部分ですので…。

それはともかく。とにかく、「輸出に堪えるリアルエールは存在する」

のです。

あとはそれをどのように輸出するのか?これには以下のように、大きく分けて4つの段階があります。

  1. 英国の国内輸送

  2. 英国~日本間の輸送

  3. 食品検疫及び税関

  4. 日本国内の輸送


すごく簡単に言いますと、①についてはブルワリー、あるいは現地運送業者に、②以降については、日本のフォワーダーさん(混載業者)にお願いすることになります。なので①については、さほど難しいことはありません。ところが、②以降になると、これが非常に難しかった。とりわけ貿易の非業界人だった私にとっては…。
第一に、運送業界が結構な閉鎖市場であることが挙げられます。初めて貿易を始めようとする会社(or個人)の場合、まずはそのハードルをクリアするのが難しい。それと、彼らも仕事ですので、手間ばかりかかる小規模な輸入については、あまり喜んで対応してくれないということもあります。ましてや「リアルエール」みたいな、過去に輸入例のない、ややこしそうな食品についてはなおさらです。

上記の理由により、まずはリアルエールというものを良く知っているであろう、英国で活動されている日系のフォワーダーにコンタクトを取りまして、実際に何度かオフィスを訪問し、詳細を詰めていきました。しかしその会社はあまり食品を取り扱った経験がなく、また設備的にも、多くの部分を同業他社にファームアウトしなければならないことが判明します。
それならばと、日本で洋酒や食品で実績のある、大手フォワーダーをいくつか選んで、連絡を取ってみました。ダメ元で連絡したのですが、嬉しいことにその中の3社から、返信をいただくことができました。さらにそのうちの1社の担当の方が特に熱心に調べてくださり(偶然ですが英国で仕事をしておられたことがあり、リアルエール好きだそうです)、何度も英国にコンタクトを取られた上で、非常に競争力のあるプランを提示してくださいました。英国のフォワーダーさんに最初の連絡をしてから半年。長かったです…。

さて、1パイント(インペリアルパイントなので、570ccです)あたりの原価(輸送費、酒税、冷蔵保管料等全込み)はいくらになったでしょう?

この辺もあまりオープンにしたくはないのですが…。

まあ、500円にもならないとだけ申しあげておきます。どこぞのサイトで、小売単価2000円以上じゃないと採算がとれないとかなんとか書いてありましたが、正直「ザマミロ」と思いました(笑)もちろん、あちこちで価格交渉をした上で、この価格が出てきたのですが…。

私の考えでは、UKパイントは日本人には多すぎる(美味しいうちに飲み干せない)ので、リアルエールは350ccと200ccのグラスで販売しようかと思っております。その場合、350ccなら原価300円台です。誰ですか?英国のリアルエールを輸入したら採算が取れないっておっしゃってたのは…??(-。-)y-゜゜゜

まさに「意思のあるところに道あり」ですね◎

今回の画像は、ロジスティクスつながりで。NorfolkにあるWells-next-to-seaの港で見た、カニの水揚げ風景です。作業の一部始終を見て思ったのは、ロジスティクスの悪さでした(笑)カニカゴで捕らえたカニは、海水で濡らした麻袋をかぶせただけで輸送されていきます。これでは鮮度も落ちるわけです(実際、港の目の前にあるシーフードレストランでも、そのカニを刺身で食べることができませんでした)。日本じゃ考えられませんわ。では~

Fisherman at Wells-next-to-sea




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2010-01-03

どうして、リアルエールを輸入したいと思ったの?どうして可能にになったの?後篇

みなさんこんにちは。さて、前回の続きです。

「やりようによってはリアルエールは日本に輸入可能じゃなかろうか」

そう思ったのは、リアルエールの消費者団体、CAMRAが出版している、「Cellarmanship」という本を読んでいた時です(この本、カスクコンディションエールの品質管理について書いてある本で、興味のある方には大変おススメです。必要なら、知りたい箇所を部分的に翻訳してさしあげますよ)。その中に、

「ポリピンと呼ばれる、段ボール箱に入ったやわらかいポリ製バッグがある。ワンウェイ容器で、容量は4.5ガロン(約20ℓ)が一般的。ただ、ヴェンティング(ガス抜き)ができないため、リアルエールには不向き。ただ、方法によってはヴェンティングできないこともない」と書いてあったのです。

早速現地調査を開始しました。しかし、探すとないもんです。八方探して、ようやくNorfolkのBranthill Farmの庭先で見つけたのがコレ。Norfolkの結構大きなローカルブランド、Woodforde'sのポリピンです。

Woodforde's polypin

これは行けそうだと、一目見てで思いました。だって、リアルエール輸入における障害のうちの3つ、つまり

  • カスクが異形で重い

  • 空のカスクは返送しなければならない

  • 容量が大きすぎる


が解消されるわけですから。

でも実際触ってみると、結構段ボールが薄いんですね。これは十分にスタッキングできるかな?とか、飛行機の貨物キャビン内の低い気圧に堪えられるかな?とか再び疑問がわいてきます。それに、ヴェンティングをどうするのかという問題も残っています。先のCellarmanshipには、「注ぎ口の反対側にピンホールを開けてヴェンティングし、その後ガムテープでふさぐ」などと書いてあるんですが、それでは漏れる危険性があって、安心してハンドポンプに繋げないじゃないですか…。

これらの問題点は、その後、現在の現地パートナーであるNigelという人物に会うことによって、解消されます。

彼を紹介してくれたのは、KentにあるWesterham Breweryのオーナー、Robert氏です。そして、Robertと私をつないでくれたのは、いつもお邪魔していた神楽坂のワインバー(現在移転休業中)のお客さんで、Robertと某外資系銀行で同僚だったTさんでした。そしてNigelは、私がどうしても連絡を取りたかった、英国のオンラインエールショップのオーナーだったのです…!!

なんかすごいですね、人の縁というものは…。

Nigelのショップを初めて訪問したのは、去年の9月です。そこでいきなり教えてくれたのが、ポリピンには2種類あるということ、一つは私が見たWoodforde'sのように、薄くて軽いもの。そしてもう一つがコレ。

Sturdier polypins

これ、見た目はあまり分からないんですが、段ボールが格段に厚いです。で、内部のポリ容器の素材も、厚みがあります。その他にも、タップの直径が、こちらの方が大きいです。

bigger tap

分かりにくいですが比較用に、こちらが通常サイズ↓

smaller tap

聞けば、5段くらい重ねても問題ないとのこと。またポリ部分の強度もこれなら安心できます。これでスタッキングと減圧貨物キャビンの問題はとりあえず解消しました。後はヴェンティングだけです。おそるおそるNigelに訊いてみます。

私  「Camraの本に、ポリピンはヴェンティングできないからエールに向かないって書いてあったけど」
Nigel 「ははっ!Camraの連中は原理主義者だからねぇ。カスク以外は認めたくないんだろう」

そう言って彼はやおらタップのネジを握り、ゆるめます…。

ブシュッ


Nigel 「これじゃダメかね?」
私   「…」(苦笑)

ヴェンティング、完了です◎(笑)
ガスの音とともに、私の疑問点はすべて雲散霧消したのでした。(注:実はヴェンティングをする際には、温度や大気圧などの様々な要件を考慮に入れなければならないので、難易度の高い作業です)

長年の疑問が氷解してほっと一息。彼の勧めるままに、店で売っているリアルエールをごちそうになります。まずはHarviestounのShiehalion(シェハリオンと読みます)などを…。

あ、カスクコンディションラガーだった…(大汗)
かく言う私も、たまにはエール以外も飲みたいのだ。
でもコレ、いわゆるラガーを想像して飲むと、裏切られます。旨いです。

Nigelと話しているうちに、彼が実はすごい人物であると分かってきます。彼は本業とは別に、英国全土のブルワリー
からカスクを取り寄せ、それを自分でポリピンに詰め直し、ブルワリーに返送するというプロジェクトを手掛けているのです。つまり、ポリピンによる遠距離輸送が可能かどうかを、ブルワリーの代わりに実地調査しているのです。

「一般的に、マイルドやビターは輸送に弱い、IPAなどのストロングエールは輸送に堪えると言われているよね。でもそれは現場の各論においては正しくない。各ブルワリーが用いる酵母の活性や、どの時点でカスクに詰めるかという醸造担当者のポリシーなどによって、エールの賞味期限と輸送可能性は大きく変わる。例えば○○のビターは、アルコール度は低いが輸送に堪える。一方、○○○のストロングエールは、酵母活性が高いから、輸送中のバーストが多いんだよ。だから、俺は自分で調査しているのさ。なあに、失敗したって大丈夫だよ。残ったカスクエールはお店で売ってしまえばいいんだから」

そう、彼の酒屋には、グラビティシステムでエールを提供するカウンターがあるのです!

Nigel's gravity system

Nigel's ale menu

すごいですよね。町の酒屋で、リアルエールを飲めたり、はたまたテイクアウト(!)することができたりするんです。
…理想です。日本でもやりたいです。15坪のパブで、しかもテイクアウト可能。仕事帰りにボトルに詰めてもらったブライトエールを手に帰宅とか。最高です◎(でも必ず、その日のうちに飲んでくださいね)

さらにNigelは続けます。「お前が輸入を希望するブルワリーがあれば言ってくれ。英国のブルワリーなら、ここまでの国内配送は問題ない。俺が輸出可能か、ファーキンを取り寄せてチェックしてあげるから。ファーキンしか売らないブルワリーのものでも、ここでポリピンに詰め替えることだってできるし」

…!!!???

いきなりすごい展開になってきました。それって、それって…??

「ああ、お前の仕事手伝ってやるよ!日本でリアルエールか。わくわくするな!!」

嬉しいです…。やっと現地の賛同者に出会うことができました。彼が協力してくれたら鬼に金棒です。
いや本当に嬉しかったんです。涙出そうなくらい。てか出ちゃったくらい。嬉しすぎて、着てきた一張羅のジャケット忘れて帰っちゃったくらい(後日、取りにいきました)。

すばらしい人々と知り合ったおかげで、容器の問題のみならず、銘柄選定の問題も解消したのでした。
これこそ、現地調査の醍醐味ですね◎

今回はここまで。次回はどうしましょう?ロジスティクスの策定にまつわるお話でもしますか…。

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2010-01-02

どうして、リアルエールを輸入したいと思ったの?どうして可能にになったの?前篇

さてみなさんこんにちは。

今回は、どうしてリアルエールを輸入したいと思ったのか、その辺を詳しく書いてみたいと思います。それには、私のキャリアパス(と言えるような大層なもんではないですが…)から書き始めますね。

私は以前、飲食関連書籍で有名な某出版社でフードライターをしていました。いろいろな業態の飲食店や、食材関連の企業、地野菜を作る近郊農家から国内のワイナリーまで、多岐にわたって取材・執筆をしました。そのライターの仕事の中で、特にワインについての興味(ソムリエのそれではなく、生産者としての)がいやがおうにも高まり、2006年にライターを辞め、シチリアにある超自然派ワイナリーで住み込みで仕事を始めました。そこはごく少人数の体制だったので、ブドウの栽培からワインの醸造まで、コアメンバーとして働く幸運に恵まれました。その頃、私の彼女(前のエントリで書いた、「家を出た嫁さん」とは彼女のことです…)は英国にいたので、彼女に会うためにボーンマスに行ったのが、リアルエールとの出会いでした。

「ああ、こんなに味わいの濃いビール(重いというわけではありませんよ)があるんだな」というのが第一印象でした。そして、五味を刺激する複雑な味わい、底味を支えるミネラル分に感動したものです。ああ、ワインと一緒だなと思いました。でも一点、ワインと違うのは、リアルエールはどんなにいい銘柄を飲んでも、陽性で、開放的で、いわば人と人をつなぐインターフェースのような、そんな感じがしました。私はもちろんワイン大好きですが、いいワインほど、グラスの中に集中してしまうので、あまり誰かとワイワイ飲むということはありません。

ビールの気安さに、嗜好品としてのエンターテインメント性を持たせたものが、リアルエールなんだと感じました。

シチリアでの仕事を終えて帰国し、さてどんな仕事をしようかと思ったとき、最初に思ったのはやはりワイン関係の仕事でした。ただソムリエに興味はなかったし、されど日本のワイン市場は世界でも有数の激戦区であり、小規模なインポーターが群雄割拠の状態でした。とりあえずは旧知の友人が経営する翻訳会社を手伝いながら、私は次のアクションプランを練っていたのです。
何か新しいことをしたい。そう思った時、思い出したのが英国で飲んだリアルエールでした。あの飲み物は、果たして日本に輸入されているのだろうか?そう思い立って調べてみました。すると、いまだ商業輸入はなされていないということが分かりました。いくつか障害があるのです。


  • カスク(樽)が重く、また容量が大きすぎる

  • 賞味期限が短い(開封前で2週間~1カ月)

  • カスクは通い樽なので、空になったら速やかにブルワリーに返却しなくてはならない

  • 出荷から提供時まで、徹底した温度管理(11~13℃)が必要



ちなみに、もっとも一般的なカスクのサイズは「ファーキン」と呼ばれるもので、9ガロン(約41ℓ)入ります。カスク自体と合わせた重量は約50kg!もあります。それだけの量を、1週間で売り切れるパブが、日本にあるかといえば、まあ、ないですよね…。だいたい、ファーキンを航空便で輸入したら、いったいいくらになるんだろう…。

Underground Cellar at Goat & Tricycle
ボーンマスの著名なパブ、「Goat & Tricycle」のセラーに眠るファーキンの山です

じゃあ、別に輸入しなくてもいいじゃん?そう思われる方も多いと思います。すでに米国産の「ケグ」リアルエールは輸入されていますし、国産のリアルエールも存在しています。そこまでこだわらなくてもいいんじゃないの?

ただ、これらのエールは、どうしてもホップが強すぎて、アルコールも高くて、モルトのシリアルフレーバーがきついもの(注:これをモルトの味わいと勘違いする人がいますが、本当のモルトの味は、そんな穀物風味ではありません)が多いのです。インパクトと飲みごたえがある、いいスタイルだとは思いますし、私もよく飲みますが、悪く言えば押しが強くて没個性と言えなくもない。まあ、ワインにおける旧世界と新世界の違いみたいなもんです。

だいたい、障害が大きいほど、何とかしてやろうと燃えるじゃないですか!

日本のエールパブで、米国のIPAを飲みながらも、それでも私は英国のおいしいカスクコンディションリアルエールが飲みたかった。あの複雑な味わいと精妙なバランス、味わいの強さではなく造りの集中力で飲ませる技術力の高さ、そういうエールをどうしても日本に紹介したい。
都内の某エールパブで働いていて、私が常連だったことから友人になった、ベテランバーテンダーさんが、「私たちがそのようなリアルエールを欲しがっても、インポーターが輸入してくれないんです。ここ10年、樽の輸入ビールの顔ぶれはほとんど変わってないんですよ」と言ってくれたことも、私の想いを後押ししてくれました。

そう思ったものの、日本にいては何の情報も手に入りません。思ったが吉日。私は英国に飛びました。早速現地の本屋で関連書籍を買ったそばから読破し、パブに行ってはセラーマン(リアルエールの品質管理者です)をつかまえて疑問をぶつけ、モルトファームやブルワリーを飛び込みで訪問し、電車とレンタカーと折りたたみ自転車を駆使して毎週末にどこかで開かれているフェスティバルにもできるだけ参加し、その上で毎日最低10種類のリアルエールをテイスティングするというノルマ(ウコン粉末を片手に…結構しんどいです)を課し、それを数カ月続けて見えてきたこと。

それは「リアルエールの輸入は、やりようによっては可能ではないか?」ということ。

文字ばっかのエントリなのに、長々と書いてしまいました…。
続きは次回の「後篇」で。

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2010-01-02

英国のリアルエールってどんな飲み物?

みなさま、あけましておめでとうございます!!
本年がみなさんにとっていい年でありますように◎

もちろん、私にとっても最高の年にしていきますよっ!

Milk Street Brewery Beer!


さて、3回目の投稿でようやくという感もなきにしもあらずですが、ビール好きの間で、なんだか名前だけが独り歩きしているイメージのある「リアルエール」という言葉、これを今回はきちんと説明していきたいと思います。 

本ブログで言う、英国の「リアルエール」とは、伝統的な原料(モルト、ホップ、天然水、酵母)を用いて醸造され、二次発酵を樽(カスク)内で行った上面発酵ビールのことで、無ろ過、無清澄、無ガス添加のフレッシュな状態でそのまま樽より提供されるものを指しています。

このような特性から、英国のリアルエールはこれまで日本に商業輸入されたことがありません。


最後の「無ガス添加」というところが、米国の「リアルエール」と最も違うところです。米国では、ガスが添加されていますね。そのようなエールは、英国ではひとまとめにして「ケグエール」と呼ばれています。実は日本の地ビールメーカー各社が作っているのは、この「米国式リアルエール」である場合が多いです。

じゃあ、その他の特徴に行きますよ。


  • 原料は地元のもの、小規模生産のもの、高品質なものを原則に厳選されており(大手ビールメーカーの価格攻勢に対抗するには、地域性と品質が重要なため)、結果としてナチュラルで豊かな味わいを持つ。リアルエールは文字通り生きており、グラスに注がれる直前まで発酵し続けながら熟成していく飲み物である。

  • 現在、英国で稼働しているリアルエール醸造所は400~500ヶ所。銘柄数では5000ほどある。産業といえる規模で伝統的なリアルエールの文化が残っているのは英国だけ。

  • 上記のように非常に地域性と嗜好性が強い飲み物である一方、本質的にはビールであり、また味わいが非常に豊かであることから、TPOを選ばず楽しめる。アルコール飲料としての汎用性は非常に高い。


すでに美味しそうと思ったそこのアナタ。ではそんなリアルエールはどんな味がするのか、味わいの特徴を以下に列挙してみます。
2010-01-01

リアルエール関係の用語集【随時更新中】


カスク

リアルエールを運ぶために一般的に使われている容器の名称。いくつか種類があるが、最も普通に見られるのは「ファーキン」と呼ばれる9ガロンサイズ。より扱いやすい「ピン」と呼ばれる4.5ガロンサイズも最近復活してきた。過去には「バレル(36ガロン)」「ホグスヘッド(54ガロン)」サイズもあったが、今は誰も使わない。通常使われるのは「キルダーキン」と呼ばれる18ガロンサイズまで。

カスクコンディションエール

リアルエールと呼ばれるための重要な要件である二次発酵を、カスク(樽)内にて行ったビールを指す。

グラビティシステム

カスクコンディションエールを、カスクから提供する方法の一種。ハンドポンプを使わず、樽から重力によって直接注ぐ。エールに最も負担がかからない提供方法であり、長いラインを通さずエール提供することができるため、品質低下の恐れが少なく、歩留まりも良い。

ゴールデンエール

文字通り「金色のエール」。ある特有のエールスタイルを示す呼称ではなく、1990年代に始まったトレンドによって生まれた、明るく薄い色のエールを便宜的に指す言葉。ペールモルトの割合が多く、ホップが多めという特徴を持つとされるが、今や色々なスタイルの「ゴールデンエール」が造られており、見た目と味わいのギャップを企図した銘柄もある。そのため、あまり好みのエールを選ぶ際の助けとはならない。

ハンドポンプ

別名ビアエンジン。カスクコンディションエールを、カスクから提供するための器具。手押し井戸の要領で、カスクからエールを吸い上げる。内蔵シリンダーの大きさにもよるが、取っ手を一度ストロークすることで、半パイントのエールをグラスに注ぐことができる。

ビター

別名ペールエール。色の薄いペールモルトと、強いホップの苦み(断じてアロマではない)を持つ一連のエールを指す。その包含する範囲は広く、さらにベストビター、プレミアムビター、エクストラスペシャルビター、ストロングビターに分けられるが、それに厳密な規格があるわけではなく、各醸造所が勝手に呼んでいるだけ。それがまた混乱を呼ぶ。一方飲み手側はアルコール度によって、オーディナリービター(4.1%以下)、ベストビター(4.2~4.7%)、ストロングビター(4.8%以上)に分類している。

ヴェンティング

カスク内での二次発酵で生成された過剰な炭酸ガスを抜く作業のこと。簡単なようだが、適切な温度管理、樽内の酸素量など、考慮すべきパラメーターが多く、実は非常に難しい作業。一つ間違えると、カスク一つが丸ごとダメになってしまうことも。

ブライトエール

①カスクコンディションエールをコンディショニングした、上澄み部分のこと。②=ブルワリーコンディションエール

ブルワリーコンディションエール

ブルワリー出荷前に、ろ過、殺菌、ガス添加を行ったエールのこと。別名ケグエール。日本で飲める英国産樽生エールは、すべてこれにあたる。輸送や保管時の環境変化に強く、クリーミーな泡が特徴だが、一度でも最高の状態にあるリアルエールを飲んだ人間には、あまりに平版でガスが強く、物足りなく感じられる。輸入・保管の過程で熱が加わることにより変性していることが多いが、比較するものがないので、そのまま売られたり飲まれたりしている。かく言う本ブログ主宰者も、英国に行くまでその違いに気がつかなかった。

ボトルコンディションエール

二次発酵を、瓶内で行ったリアルエールのこと。しかし日本入ってきている英国産ボトルエールは、9割方ブルワリーコンディションエールである。

ホッピー

ノンアルコールの某ビアテイスト飲料のことではない。ビールの官能評価において、ホップのアロマ(苦みではない)が強すぎるものをこう表現する。特に米国のクラフトビールにおいて良く見られる現象。シトラス系のアタックは「ツカミ」こそできても、最後まで飲むのはしんどい。英国のエールフェスティバルで、たまにそんな米国の悪しき習慣を真似たリアルエールに出会うことがあるが、自分の体内を通すことなく、速やかにトイレに流すのが正解。

ポリピン

リアルエールのカスクの一種。タップのついたソフトなプラスチック製バッグが段ボールの箱に入っている。サイズは4.5ガロンが一般的だが、もっと小さなサイズもある。一般的になってきているとはいうもの、通常商品としてラインナップしているブルワリーはまだ少ない。ヴェンティングができないためCAMRAではあまり推奨していないものの、方法はある。



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olubayo

Author:olubayo
日本唯一の英国リアルエールエージェント兼セラーマン。大阪外国語大学卒業後、某大手新聞社を早期退職。翻訳をしながら某料理雑誌記者という二足のワラジ時代を経て、一念発起してシチリアの超自然派ワイナリーで修業。ワイナリー設立の資金集めのため、もう一つの偉大な醸造酒文化である英国の「カスクコンディションリアルエール」を日本に紹介する仕事に奮闘中~
お店でリアルエールを提供したい方、一度飲んでみたい方、業態開発をお考えの方、みなさん大歓迎です。どこへでも説明に伺いますよ!

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