2010-01-11

マイルドエールって、何が「マイルド」なの?

少し更新の間隔が開いてしまいました。ちょっとプライベートで色々あったもんで…。
さてさて、今日は前回のエントリの続きといっちゃなんですが、「マイルド」というエールのスタイルについて書いていきます。

世界最初の産業革命が起きる以前、つまり18~19世紀より前、すべてのビールは濃い茶色でした。その理由は、麦芽が薪火の窯で焙煎されていたからです。その時代のビールはすべて、スモーキーなアロマとフレーバーを持ち、また木製樽での長期熟成により乳酸が生成されるため、多少の酸味を伴っていました。今でもベルギーではこのスタイルのビールが残っている地方がありますし、イギリスでも、Greene KingのStrong Suffolk Aleを筆頭に、いくつか残っています。こういった産業革命以前の茶色いビールのうち、ほとんど樽熟成を行わないものを、本来はマイルドと呼んでいたわけです。つまり、酸味が「マイルド」なんですね。ちなみに当時、こういう若いブラウンエールは、ペールエールやオールドエールと混ぜ合わせ、ポーターやスタウトを造るのにも使われました。

18世紀の後半にもなると産業革命が進み、機織り機や溶鉱炉、坑道などで働く労働者たちが、長時間労働の後のリフレッシュ飲料として、ポーターより甘みのあるエールを要望するようになります。偶然にもその時期、醸造所側では、長期間の樽熟成にかかるコストを削減したいという希望がありました。両者の思惑が一致して、深煎りのモルトを使用し、熟成による酸味のない「マイルド」というエールが完成したのです。ただこのスタイルも、薪窯に替わりコークス窯が発明され、ペールモルト(淡色モルト)が広く作られるようになるにつれて変化していきます。ペールモルトは、クリスタルモルト、ブラックモルト、チョコレートモルト(いずれも深煎りモルト)とブレンドされ、さらに糖分やカラメルを添加することにより、より甘みの強いマイルドへと進化していったのです。ちなみに最近のマイルドエールは、さらに高品質の深煎りモルトを使うことで、以前とは比べ物にならないくらいの味わいの深みを表現できるようになっています。また、明確に甘いマイルドはあまり見かけませんね。

英国全土のビールの売り上げのうち、マイルドはわずか1パーセントを占めるにすぎないという現状からは想像できませんが、19世紀から20世紀にかけては、マイルドは英国で最も人気のあるビールでした。そうですよね。当時は肉体労働者が最も多かったわけですから。それを証明するようにマイルドは、英国の産業構造が変わった1950年頃にはほぼ絶滅してしまいます。
まあ、これは産業構造だけが理由ではなく、「マイルド」という名前が持つ残念な宿命のためでもあります。その名称ゆえに、マイルドは「ビター」より弱い、具体的にはビターより甘くて、ホップが少ないエールだと思われてしまうことが多いのです。もっとも、そのイメージは正しくありません。1871年に発行された「Arts of Brewing」によれば、一般的なマイルドは7%のアルコール度数を持つとされていますし、20世紀前半におけるマイルドの平均アルコール度数は5.5%でした。この時代のマイルドは、今もマイクロブルワリーによって造られています。代表的な銘柄としては、Sara HughesのDark Ruby Mild(6%)あたりですかね。

「労働者の飲み物」ということで売れなくなったマイルドに対して、醸造所側はアルコール度数を下げたり、名前から「マイルド」をはずすなどの消極的(笑)な措置で対抗します。BanksのMildがOriginalと改名したのがいい例ですし、McmullenのAKはビターとして販売されました(実際は非常に珍しい、ライトマイルドの逸品ですが)。

でも最近、やっぱりちょっとマイルド復活の兆しがあるみたいですね。現在マーストン傘下でリリースされているBanksのOriginalは、マーストンのウォルバーハンプトン工場の稼ぎ頭ですし、2000年にMoorhouseのBlack Cat MildがChampion Beer of Britainを受賞してからは、多くのマイクロブルワリーがマイルドを製造しています。さらに2007年はHobsonsのMildが、2009年はRudgateのRuby MildがSupreme ChampionのGoldを受賞しています。そのムーブメントは、米国にも飛び火しました。少なくない数のブルワリーが、「ブラウンビール」を造っています。あんまり米国のビール知らないんで、ぱっとはBrooklynのBrown Aleくらいしか思い浮かばないですが…すみません。やはり、特に米国のホッピーなビールに慣れた消費者に配慮して、「マイルド」の名称はここでも使われていないんですね。

ちなみに、昨年は私もだいぶマイルドをフォローしました。以下にテイスティングノートを少々。

Derby Pale Mild Moment 3.6% Derby, England
Dearby Pale Mild Moment
ゴールデンマイルド。青すぎるホップフレーバーが強烈。コーンみたいなアフター。うん、マズい。笑

Holdens Black Country Mild 3.7% Dudley, England
テイスティングのみ。コンディションが悪かった。軽薄な印象しかない。残念。

Hobsons Mild 3.2% Cleobury Mortimer, England
モルト麦茶。いい香りで期待度がUPする。ビタリングホップが結構効いている。少し火打石的なSO4フレーバーあるも許容範囲(コンディショニングの問題?)。アルコールを上回る充実した味わい。きちんと甘く、アフターやや長め。本当によくできたマイルド。

Goachers Real Mild 3.4% Maidstone, England
コーヒー、カカオ、納豆系イーストアロマ。多少コンディショニングしすぎだったんだと思う。だからこれといった特徴はないものの、とりあえずどんぴしゃにピントが合っているのがスゴイ。さっぱり系。とてもdrinkable。名前の通りのリアルマイルド。

Pilgrim Moild 3.8% Reigate, England
ブドウ系のフルーティーアロマ。追ってローストタンニンのあるモルトフレーバー。バブルガム系エステルが効いててユニーク。好みじゃないけど旨い。

White Dark Mild 4.0% Bexhill, England
テイスティングのみ。集中力ない感じでかなりwatery。酸味強すぎ。マズー。おそらく劣化してたと思われる。本来こんな造り手じゃないはず。

Moorhouse Black Cat 3.4% Burnley, England
Moorhouse Black Cat Mild
醤油→ダークチョコレート→黒い果実→ホップレジンという重厚なフレーバー構成。ローストフレーバーが全体に。チョコレートモルト使用。ピントが硬い感じで好感。輸入に堪えるかも?

Cains Dark Mild 3.2% Liverpool, England
Cains Dark Mild
リバプールのリージョナル。向こうが見えないくらい真っ黒なマイルド。少しピーティでヨード香がある。コーヒー的なアロマ。醤油→チョコレート→酸味。追ってローストタンニン。かなり締まった印象。おそらく口切りだと思われる。空気に触れることにより、グレープフルーツ系のアロマが立ち上がる。カスクにドライホッピングしてるせいかな?控えめな甘みもあり、バランスよし。

Elgood's
Black Dog Mild 3.6% Wisbech, England
Elgood's Black Dog Mild
スモーキーなモルトの甘みが全開なマイルド。もう少し酸味が欲しいかも。タンニンの収斂性はやや控えめ。特に魅力はないと思う。

Beckstones Black Gun Dog Freddy Mild 3.9% Millom, England
Beckstones Black Gun Dog Freddy Mild
モルティ。麦茶系の濃ゆいアロマ。強めのエステル。それ以外はやや単調かな。余韻もかなり短い。

Dark Star Old Chestnut 4% Haywards Heath, England
Dark Star Old Chestnut
昔は「Old Ale」と呼ばれていた。モルティ。カラメル混じりのフルフレーバー。醤油、次いでゴールディングスホップアロマ。ナッティなフレーバーが残りながらドライに切れていく。だいぶ濃い目、なのにキレるマイルド。あまり見ないスタイルではある。

Otley Dark-O 4.1% Pontypridd, Glamorgan, England
Dark Star Dark-O Mild
現代風に翻訳したマイルド。非常にはっきりした、深みのある麦茶アロマ。スモークアロマも強め。で、キレる。タンニンとか甘みとかに頼らず、アロマとフレーバーだけでモルトを表現して、それでいて味わいをおろそかにしない。ファグルズホップが効いてる。新しいスタイルだと思う。でも、今はブルワリーが「スタウト」扱いしているらしい。今すぐ飲めるスタウトね。

St. Peters Mild 3.7% Bungay, England
チョコレートモルトを使ったマイルド。アロマがエステルというか、トロピカルフルーツっぽい。ボディがあんまりないよね。うーん…。

Bateman’s Dark Mild 3.0% Skegness, England
これは旨いマイルドだと思う。北の赤いフルーツアロマ感じる。モルト甘く、酸味といいバランスを保っている。ホップはやや強めだが好ましい。アルコール低いのに、複雑。でチャーミング。こんなマイルドもあるんだね。

Rudgate Ruby Mild 4.4% York, England
Rudgate Ruby Mild
ルビーというほど赤みがかっているわけではない。あくまでダークルビー。強いチョコレート~コーヒーのアロマ。少しナッティアロマあり。非常にオーソドックスな構成。赤いフルーツ少々。ビタリングホップがちょっと強め。モルトの甘みもある。少しアルコール高めなので、飲みごたえのあるマイルドになっている。CO2が非常に細かいのも特徴。

まあ、いずれにせよ、マイルドは個人的に大好きなスタイルです◎特にランチタイムにパニーニ(イタリアかよ)と食べるのがお気に入りです。

次回は、どうしましょうかね?リアルエールにおける炭酸ガスのお話でもしますか。

では!Keep on binge drinking!:D

theme : Restaurant
genre : Gourmet

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olubayo

Author:olubayo
日本唯一の英国リアルエールエージェント兼セラーマン。大阪外国語大学卒業後、某大手新聞社を早期退職。翻訳をしながら某料理雑誌記者という二足のワラジ時代を経て、一念発起してシチリアの超自然派ワイナリーで修業。ワイナリー設立の資金集めのため、もう一つの偉大な醸造酒文化である英国の「カスクコンディションリアルエール」を日本に紹介する仕事に奮闘中~
お店でリアルエールを提供したい方、一度飲んでみたい方、業態開発をお考えの方、みなさん大歓迎です。どこへでも説明に伺いますよ!

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