2010-01-14

気が抜けているわけではありませんよっ!リアルエールの炭酸ガスについて

いやー、寒い一日でしたね。部屋で暖房全開にしても、靴下2枚履き、ズボン2枚履き、上着4枚(笑)。手袋までしてキーボードたたいてましたよ。一人身になった今では部屋が不必要に広いので、寒いのでした(=_=)

さて、気を取り直してと。

エールを「気が抜けたビール」(怒)などと言う方がおられるように、エールの炭酸ガスについてはかなり誤解が多いです。なので、今回はリアルエールの二酸化炭素についてお話しますね。私はリアルエールのエージェントであると共にセラーマンなわけですが、そのセラーマンという職業の、一番重要な部分がこの二酸化炭素(以下CO2)のコントロールなのです。それでは、具体的に見ていきましょう。

ご存じのように、CO2というのは無味無臭のガスでして、発酵の過程において、アルコールの次に多く生成される物質であります。自然界の中では、大気中にごく少量(0.037%)含まれていますね。その大気中の他の気体(酸素と窒素)と比べたCO2の大きな特徴は、水に溶け込みやすいということです。つまり、もしこの特徴がなかったら、大気中のCO2の割合は今よりずっと大きくて(海中にある分が空気中に放出されるわけで)、われわれ生物は地上で生きていけなかった。ま、とにかく、その特徴があるからこそ、私たちは美味しいビールが飲めるってわけです。なので、先に申しあげたように、エールのCO2濃度(これを「コンディション」と呼びます)を最適化することが、エールセラーリングの最重要課題なのです。ちなみに、定温(13℃)のセラー内では、1パイントのエールの中には、平均して1パイント強(常圧での容積換算)のCO2が含まれています。

ビールの中に含まれるCO2量を決める要素は3つありまして、一つ目は「液体の温度」、二つ目は「ビールの液面にかかるCO2の圧力」、そして最後に挙げられるのが「最初の2つの要素が、直近の数時間でどのように変化したかという経過」です。もし温度とCO2圧力が一定であれば、カスク内のビールにおける溶存ガス量は、どんなに時間が経っても増減することはありません。この事実が実は結構理解されていなくて、カスク内にビールが入っている時間が長いほど、溶存ガス量が増加すると考える人が結構多いのです。

一つ目の、温度がガス圧にもたらす影響というのは、みなさんも経験からおわかりかと思います(冷えたラガーはおいしいでしょ?)。つまり、液体の温度が冷たいほど、溶存CO2量が増えるのです。このことはつまり、セラーの温度が数℃上下しただけで、オーバーコンディションと呼ばれる状態になったり、あるいは反対にアンダーコンディション(いわゆる気が抜けた状態)となることを示唆しております。じゃあどちらがより致命的なのかといいますと、やはり後者でしょう。この場合、提供時にどんな冷却器を使っても修正できません(ガス添加はダメですよ。リアルエールなんだから)。

二つ目のCO2の圧力ですが、これはちょっと難しいです。なのでスムーズに理解するために、物理学の話を少々させてください。この場合、考える必要があるのはCO2の絶対圧力です。他の気体、たとえば酸素や窒素は無関係です。空気のような混合ガスにおいては、各気体の圧力(=分圧)がそれぞれ独立して作用し、ビールの液面における全ガス圧となります。「混合気体の全圧は、各気体の分圧の計に等しい」という、ドルトンの法則ってヤツですね。つまり大気中(1バール=1000ミリバールの場合)の分圧は、約200ミリバールの酸素、800ミリバールの窒素、そして計測不能なくらいにごく少量のCO2ということになります。だからフタをしないでビールを放置しておくと、炭酸ガスが抜けてしまうのです。
ちなみに、半日以上静置したカスクコンディションエールをセラー内でヴェンティングすると、13℃の場合はだいたい1.1v/v(液体中のCO2濃度を表わす単位というのはいくつかあるのですが、リアルエールの世界では「volumes/volume」略してv/vという単位を用います)の溶存CO2量に自動的に落ち着きます。炭酸ガスは味覚に対して最も大きなマスキング効果を持つので、これが数℃下がるとエールの味わいが弱くなります。反対に数℃上がると、気が抜けた味わいになってしまいます。

今さらっと書きましたが、このことは重要です。つまり、
リアルエールにおいては、弾ける炭酸ガスの冷たいのど越しではなく、ホップと麦芽が生みだす複雑な味わいに力点がおかれているのです。より深い味わいのために、あの炭酸ガス濃度にする必要があるのです。

さて、セラーにカスクが到着し、ラックに乗せられた時点(つまりヴェンティング前)では、カスク内に存在するガスというのはCO2だけですが、カスクに詰められてからずっと進行中の2次発酵工程によってCO2のガス圧は高まっており、一部は液体中に溶存し、一部は気体となっています。これはこれでバランスが取れているのですが、この状態でカスクをヴェンティングすると一気に余分なガスが放出され、空いた空間に、過飽和だった液体中のCO2が気化していきます。この一連の作業の中で液体温度が適温のまま変化しなかった場合、このまま数時間経過すると新しいガス圧のバランスが完成し、コンディショニングはこれで完了します。この時点では、カスク内の二酸化炭素の圧力が、大気圧と等しくなっています。

このカスク内の環境は、エールが消費されていくに従って変化していきます。これは私が今回輸入計画を立てているポリピンではなく、通常のアルミカスクからハンドポンプで提供する場合でお話しますね。アルミカスクは硬いので、ハンドポンプによってエールが吸い出されると、内圧が下がってある時点からはエールを吸い上げることができなくなります。そのため、ヴェンティング後のカスクには「ソフトスパイル」という、空気を通す素材(主に木材)でできた栓が刺さっています。これを通して、カスク内の空隙には空気が入ってきます。つまり、エールが消費されていくにつれて酸素や窒素の分圧がかかってきて、CO2の圧力が下がっていくわけです。気が抜けていくわけです。

まさにこの部分、カスクが空になるまでにどのくらいのCO2を液体内にとどめておけるかがセラーマンの腕の見せ所です。

口切りからカスクが空になるまでの時間が短ければ短いほど、セラーマンの仕事は楽になります。しかし状況によってその時間の長さは千差万別。数時間で空になることもあれば、数日かかることもあります。予想できない出来事に対処するために、なるべく多くのCO2をカスク内に残しておくことは重要です。そのため非提供時には、先ほどのソフトスパイルではなく、ハードスパイル(気体を通さないタイプ)を使うのが必須です。
まあ、ポリピンの場合は内圧が下がると同時に容器自体が縮んでいくので、CO2が抜けるという恐れはありません。そういった意味でも、ポリピンは扱いやすいのです。ただ、私が輸入用に用いるポリピンは厚みがあるので、ある時点からは縮みません。空気を入れて、内圧を調整する必要があるのです。そうなったときに、どうやって溶存CO2をコントロールするのか?

それが私のノウハウでございます(笑)。知りたい方は、直接私まで。

theme : Restaurant
genre : Gourmet

Post a comment

Only the blog author may view the comment.

Profile

olubayo

Author:olubayo
日本唯一の英国リアルエールエージェント兼セラーマン。大阪外国語大学卒業後、某大手新聞社を早期退職。翻訳をしながら某料理雑誌記者という二足のワラジ時代を経て、一念発起してシチリアの超自然派ワイナリーで修業。ワイナリー設立の資金集めのため、もう一つの偉大な醸造酒文化である英国の「カスクコンディションリアルエール」を日本に紹介する仕事に奮闘中~
お店でリアルエールを提供したい方、一度飲んでみたい方、業態開発をお考えの方、みなさん大歓迎です。どこへでも説明に伺いますよ!

Latest Entries
Latest Comments
Latest Trackbacks
Monthly Archive
Category
FC2 Counter