2010-01-06

リアルエールは不変じゃない~ゴールデンエールに見る栄枯盛衰物語~

数年来、英国のリアルエールシーンを追っている私ですが、現地フィールドワーク(という名のはしご酒)の際には、必ずデジカメとメモを用意して臨みます。すべてはテイスティングノートのためです。

  1. ハーフパイントを注文

  2. 飲む前にその銘柄のポンプクリップがついたハンドポンプの前でパチリ

  3. 色を確認して、メモをとる

  4. 香りを聞き、メモをとる

  5. 軽く口に含み、空気を取り込むようにして味わいを見、メモをとる。吐きださず、舌の後ろからのどにかけての味わいも忘れずに確認

  6. あとは普通にグビグビと◎


というのが、現地のパブにおける、私の儀式です。

Milk Street Brewery Beer! with pump clip
画像はドーセット州ローカルのMilk Street Breweryの限定品、「Beer!」。とてもユニークで、パンドカンパーニュのようなイースト香があり、飲み口はキレまくります。そして複雑なモルトフレーバー。

上記の儀式を毎日、最低10種類(フェスティバルの時なんかは30種類を超えます)のエールについて行います。この行為、ローカルのエールラヴァー達にはアピール度十分でありまして(笑)、大体3杯目くらいに、誰かしらに声をかけられます◎みんなおじいちゃんばっかで、若い女の子じゃないというのが、いささか物悲しいところではあります。

それはおいといて。

今回のお話は、それら一連の行為のうちの3番目、「エールの色」についてです。

エールの色は、一般的にはそのエールの味わいを示すものとされていまして、お客が「今日は○○色のエールをくれ」と言うのはパブでよく見る光景です。また店側でも、ハンドポンプの脇にその銘柄のエールが入ったショットグラスを置き、どんな色のエールなのかを見せているところもあります。
しかし特に去年、一昨年あたりはノートを取る時に悩みました。どのエールを見ても、まあ金色ばっかりなこと。「カッパー」だの「アンバー」だの「ハニー」だのと枕詞をつけてみても、ベースは金色。ビターは9割がた、IPAもほとんど、程度の差こそあれ「ゴールデンエール」なんです。だから、もはや色と味わいが一致しないことの方が多いんです。

実はこれ、英国のいわゆるマイクロブルワリーたちが仕掛けた「トレンド」なんです。

英国のビール産業における量的なプレゼンスこそ微々たるものですが、トレンドセッターとしてのマイクロブルワリーの役割には、実は非常に大きなものがあります。たとえばPitfield Brewery(最近はオーガニックにも熱心ですが)が古い文献をひっくり返して「失われたフレーバー」を見つけ出し、それを商品化したことで、有名なFuller'sのロンドンポーター(日本では冬の定番として、ケグで楽しまれた方もおられると思います)やMarston'sのOld Empire IPAなんかが生まれましたし、Envileがハチミツを醸造に使い始めたことで、Young'sのWaggle DanceやFuller'sのOrganic Honey Dewなどが誕生したわけです。あ、Badger(Hall & Woodhouse)のピーチエールGolden Gloryにしても、その前にBuffy'sみたいなマイクロブルワリーたちがフルーツエールを造りはじめてましたよね。最近では環境に配慮したエールや、ベジタリアン向けに動物性澱下げ剤(アイシングラス)を使わないことを謳ったエールなどの新商品が出てきましたが、いずれも小規模ブルワリーが仕掛けたトレンドです。

昨今のそういったリアルエールのトレンドにおける最も大きな波が、ゴールデンエールなのです。

ゴールデンエールが生まれた20数年前は、エール産業全体が、「ダークからライトへ」の大転換期でした。時代を少しさかのぼれば、ポーターは第一次大戦中にモルトが配給制になったことで絶滅しましたが(もし英国政府がアイルランドの醸造所に対して同じような配給制を実施していたら、スタウトも同じ運命をたどったことでしょうね)、戦後の好景気時には絶大な支持を集めたダークマイルドも、今や絶滅寸前です(ここ最近は状況が変わってきている?これは後で詳述)。マイルドの消費量は1950年代にビターに抜かれましたし、ラガーは1970年代の終わりには人気のピークが過ぎ、今やリーズおよびマンチェスター周辺で造られているのみです。

トレンドとしてのゴールデンエールは、サマーセット州のExmoor BreweryがリリースしたExmoor Goldとソールズベリの超有名ブルワリー、Hop Back Breweryの代名詞、Summer Lightningをもって端緒とするのがいいのではと思います。確かにBoddingtonsやWem Pale(Wemは2008年、Hanby Alesに買収されました)、Three Tunsの通常ラインナップたちも明るい色のエールですし、ダドリーのHoldensや今はなきルートンのGreen'sやワイト島のBurtsなども30年前から「ゴールデン」あるいは「ゴールド」という名前のエールを販売してきました。でも1990年代になって初めて、「金色のエール」というトレンドが生まれ、「ライトなボディとライトな色合い、ほとんどアンバランスなレベルのホッピーフレーバー」という特徴を備えたエールが大量にリリースされたのです。これはおそらく、当時(というか今も)人気があったコンチネンタルラガーに対抗するためだったのでしょう(というか、EverardsのSunchaserみたいな、あからさまにコンチネンタルラガーな銘柄も造られています。「味がない」とエールラヴァーたちからは酷評されていますが…)。
このトレンドは、1996年の夏を経て、さらに強固なものになりました。この年の夏は非常に暑く、多くのエールラヴァー達もさすがに冷たいラガーに浮気したのです。浮気できない小心者(笑)は、ゴールデンエールに慰めを求めました。余談ですが、この暑さのためにエールの流通システムが大打撃を受けました。ほとんどのカスクエールが輸送中に変質してしまい、さらに爆発(!)したカスクも多数あったとのこと。

そんなこんなで、ゴールデンエールは「売れるエール」として業界に認知されていきました。例えばCAMRAの「Good Beer Guide」(毎年春に発売されます)のバックナンバーをひも解くと、1996年版には「ゴールド」の名前を持つエールを造っているブルワリーは22ヶ所でしたが、1998年度版ではそれが55ヶに増加、2007年には134ヶ所と激増しています。それを裏付けるかのように、ゴールデンエールは2001年以降、CAMRAが選ぶChampion Beer of Britainを毎年のように獲得しています。ここに及んで、ゴールデンエール部門が2005年に新設されました。2005年と2006年は2年連続でCrouch ValeのGoldが受賞しています(同時にSupreme Championも獲得)。ちなみに、それに追従するかのように、1996年にはゴールデンエールを造る大手醸造所は3ヶ所しかなかったのに、2007年には16ヶ所に増えています。

でも、ここで注目すべきはもはやゴールデンエールではなく、2007年はHobsonsのMild、2009年はRudgateのRuby MildがSupreme ChampionのGoldを受賞しているという事実。実はロンドンはヴィクトリア駅近くに、毎日マイルドを3種類提供しているという非常に奇特なパブがあるのですが(特に名は秘す)、そこで若者を中心にマイルドの人気が復活しているという話を聞きました。その時はまさかと思って聞いてましたが、今度はマイルドの復権が静かに進行中なのでしょうか??

Rudgate Ruby Mild
Ruby Gold、ちゃっかりもう飲んでます。ややオイリーでタバコ系スモークフレーバーが少々。チョコレートやベリーも感じます。ボディもしっかりあり、ドライなモルトの味わいも好ましい。完成度の高いマイルドですが、その分、マイルド特有の持続力が弱さを物足りなく感じたりもします…。消費者は勝手です。


マクロな目で見ると「伝統的」なリアルエールですが、ちょっとミクロな視点で見直してみると、実は栄枯盛衰、新陳代謝を繰り返すダイナミックなムーブメントが見えてくるよ、というお話です。

ではまた今度。Keep on drinking good beer!!

theme : Restaurant
genre : Gourmet

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olubayo

Author:olubayo
日本唯一の英国リアルエールエージェント兼セラーマン。大阪外国語大学卒業後、某大手新聞社を早期退職。翻訳をしながら某料理雑誌記者という二足のワラジ時代を経て、一念発起してシチリアの超自然派ワイナリーで修業。ワイナリー設立の資金集めのため、もう一つの偉大な醸造酒文化である英国の「カスクコンディションリアルエール」を日本に紹介する仕事に奮闘中~
お店でリアルエールを提供したい方、一度飲んでみたい方、業態開発をお考えの方、みなさん大歓迎です。どこへでも説明に伺いますよ!

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